成人の儀⑦

 エレノアとジークは開いた扉に対して一気に警戒度を引き上げる。

 そちらを注目してみていると、3名の人間が部屋に入り込んできた。


「あら?子供?」


 紫の帽子をかぶった大人の女性がそうつぶやく。


「子供?本当だな。なんでこんなところに?」

 松明をかかげ、大きな両手剣を背に担いだ大柄の中年男性が答える。


「えー?本当ですか?」

 狼の獣耳をした若い女性も続く。


「あなたたち、こんなところでなにをしていたの?」

 帽子を被った女性がそう尋ねてきた。


「えっと…」

 ジークが答えに戸惑っていると、エレノアが弁明を始める。


「私たちこの近くの村に暮らしているんですが、この場所に誤って迷い込んでしまって!」

「あら、そうだったのね。」

「村っていうと俺たちが滞在しているダルグ村か?」

「そうです!」

「そういえば今朝村長さんが成人の儀を執り行うとか言っていましたね。」

「ああ言ってたな。ってことはあれだな。子ども扱いしちまって悪かったな。」


 男性がそう謝罪を述べると、ジークが声を絞り出す。


「あの、ひとつ聞いても?」

「ん?なんだ?」

「あんたたち、もしかして村に滞在してたっていう冒険者?」

「ああ、俺たちは冒険者だ。まあ、”元”がつくけどな。」

「ちょっとマークさん!わたしは元じゃないですよ!現役バリバリです!」

「おっとそうだったな。お前さんは今謹慎中だったもんな。」

「むぅ~もうマークさんなんて知りませんよ!」


 獣耳の女性がぷんすか起こり始めると、男性は豪快に笑い始めた。


「すげぇ、本物の冒険者だ!」

 ジークはキラキラとした目を3人に向ける。


「おっと自己紹介がまだだったな。俺はマーク=フレイザー。」

「一応巷では剛剣の英雄なんて呼ばれている。よろしくな坊主ども。」

「俺、ジーク=ラザフォード!成人の儀を終えたら冒険者になろうと思ってんだ!」

「お!新しく後輩になるのか!だったらお前さん、バルム砦にある冒険者学校にいってみるといい。俺たちはいまそこで講師をやってるんだ。」

「へえ、そうなんだ!」

「志を同じくする同年代の若者たちが集まる場所だ。行けばもしかしたら冒険者人生を共にする仲間が見つかるかもしんねえぜ?」

「仲間か、それはちょっと面白うそうだ。」

「だろ?おっとお前らも自己紹介しとけ。」

「そうね。わたくしの名前はオリヴィア、オリヴィア=パードムよ。」

「私はレベッカ=ベンバートンっていいます!」

「私はエレノア=ルーズヴェルトです。」

「ルーズヴェルト?もしかして、あの伝説の冒険者ルドルフ=ルーズヴェルトの末裔か?」

「いえ、私はルーズヴェルト家の養女なので血縁ではないです。」

「(お義父様、伝説の冒険者だったんだ…)」

「なるほどな…」

「お嬢ちゃん、ひとつ突っ込んだことを聞いていいか?」

「なんですか?」

「お嬢ちゃんのその片目、やっぱり見えてないのかい?」

「…」


 マークはエレノアのつけていた眼帯に対して突っ込んできた。


「はい。小さいころとんでもない大怪我を負いまして、その時にできた傷なんです。」

「そういえばエレノアってうちの村に来た時、死にかけてたって聞いたな。」

「うん。」

「そうか、そりゃ悪いことを聞いちまったな。」

「いえ、私も気にしていないので、大丈夫です。」

「何かあったら行ってくれよ。」


 二人の会話を聞いていたジークはふと疑問に思った。


「(あれ、エレノアっていうほど見えてなかったか…?)」

「(ま、いいか。)」




「それにしてもあなたたち、こんな危険な場所に迷い込んでしまうなんてよく無事だったわね。」

「そうでもなさそうだぞ。」


 マークが指した方向をオリヴィアとレベッカの二人が見る。

 するとそこには先ほどエレノアとジークが倒したガストの姿があった。


「あなたたちが、これを…?」

 オリヴィアは驚きを隠せないでいる。

「おう!俺たちで倒したんだぜ!」

 ジークは胸をはる。


「すげえじゃねえか坊主ども!ろくな訓練も受けてねえだろうに、魔物を倒せるなんてな!」

「こりゃあ、将来有望だな!」

「そうね、でもこの先何がいるかわからないし、危険もあるわ。まずはこの子たちを家に送り返しましょう。」

 オリヴィアがそう提案すると、

「待ってください!」

 とエレノアが声を上げる。


「あの、足手まといなのは承知のうえでお願いします。どうかわたしたちを奥まで連れて行ってくれませんか?」

「エレノアちゃん?はやる気持ちはわかるわ。でもこれは遊びじゃないのよ?」

「それもわかってます。でも、私はどうしてもこの先に行かないといけないんです。」


 エレノアはそう言うと自身の胸の内に感じる衝動を打ち明けた。


「誰かが呼んでいる、ね。」

「面白そうじゃねえか。もしかしたらここは本物かもしんねえぞ?」

「あいつらがここに狙いを定めているのもあながち間違いじゃないんじゃねえか?」

「ちょっとマークさん!」

「まあいいわ。同行を許可します。」

「ただし、わたしたちの傍を絶対に離れないこと。」

「わたしたちが撤退を決めたら即座に応じること。」

「それが条件です。従えないのなら即座にあなたたちを家に送り返します。」

「いいかしら?」


 オリヴィアが厳しい口調で提案する。


「わかりました。それで大丈夫です。」

「よかった。それじゃあ行きましょうか。この奥へ。」


 エレノアとジークは3人の冒険者に挟まれ、先へと進むことになった。

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