成人の儀⑥

 影の魔法生物は予想通り大した強さはないようだ。

 試しに鉄棒をぶつけてみたが、問題なく通用しているようだ。

 慢心していたかと言われればそうかもしれない。

 私は完全にガストという生き物をなめてかかっていた。

 そんな隙を見逃さなかったのか、あるいは偶然なのかはわからない。

 私はガストの攻撃をもろに受けてしまった。

 ガストの鋭利な影が私の身体を少し裂いたのだ。

 ヒットポイントがあるとはいえ、痛いものは痛い。

 血が流れ出るほどの怪我を私は負ってしまった。

 まずい。

 私はそう感じた。

 ジークの方をチラ見する。

 ジークは少しうろたえたようだが、すぐに切り替えガストを攻撃しかけた。

 ガストはそのまま動かなくなり、ジークはそれを確認すると心配した表情で私に近寄ってきた。


「エレノア!」

「来ないで!」


 私はとっさに叫んだ。


「んなこと言ってる場合か!」

「そうじゃない!」

「お願いだから来ないで!」


 私の必死な叫びにジークは躊躇を見せた。


「でも、お前、そんな怪我早く治さないと!」

「今ポーション出すから!」


 ジークは急いで持っていた荷物からポーションを取り出そうとする。


「大丈夫。自分でできるから!」


 私はそう言って急いでポーションを取り出し、勢いよく飲み干した。

 長年放置されていたせいなのか、元々の味なのかはわからないが、あまり美味しいとは言えなかった。

 ポーションを飲み切るとすぐに効果が現れた。

 受けた傷は塞がり、元通りとなった。


「すごいな。本でしか知らなかったけど、こんなにすぐ効果がでるんだな。」

「うん。でも専門家はもっと効果的に使えるらしいよ。」

「へぇー。俺もそのあたりは勉強しておこうかな。」

「心配してくれてありがとう。先行こう。」

「おう!」


 私が先を促すと、ジークは元気よく頷いてくれた。

 よかった、ばれなくて。

 でも、次からはもう油断しない。

 エレノアがそう決意を固めると、不意に右手側の扉がギギギ、と開き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る