成人の儀④

 目の前で崩れ落ちていく壁を目の前にしても少し驚いただけで、私の思考は私を呼ぶようなこの胸のざわつきに引っ張られていた。

 一体何が私を呼ぶのだろう。

 この先に何があるのだろう。

 胸のざわつきが私の好奇心を焚きつける。


「くそっ、どうすんだこれ?」


 ジークは崩壊してしまった壁の心配をしているようだ。


「ねえ、ジーク。そんなことどうでもよくない?」

「は?」

「見てよ、なんか部屋になってるみたいだよ。」

「それに奥にあるの、扉じゃない?行ってみようよ。」


 私はそう言って視線で”行くぞ”と訴えかける。


「確かに、なんか面白そうだな。」


 ジークもまたソワソワとし始めた。

 ジークはこういうの好きだから、絶対に賛同してくれると思った。

 早く私を呼ぶこのざわつきの正体を突き止めなきゃ。

 私がそうはやる気持ちを抑えきれず、扉に手をかけようとすると、


「まあちょっと待てよ。」

「こういうのは準備してから行くもんだぜ。」


 とジークが止めてきた。


「そういうの別にいいよ。早く先に行きたい。」

「わかってねえな。準備もまた冒険の醍醐味だぜ?」

「それにみろよ、ろくに明かりもねえんだ。今聖火を持ってくるから待ってろ。」

「暇ならそこにある木箱の中身をあさってみろよ。なんかあるかもしんねえし。」


 ジークはそう言って聖火を持ち出しに離れていった。




 私は仕方なく木箱の中身を空け調べ始める。

 箱の中にはいくつかの小瓶、鉄製の棒、小さい赤色の玉が入っていた。

 鉄製の棒は武器として使えそうだし、ジークにも持たせておこう。

 小瓶の中身は、たぶんヒーリングポーションかな?

 この世界の生き物にはすべからくヒットポイントと呼ばれる防御膜が存在している。

 このヒットポイントは受けたダメージを代わりに引き受けてくれる重大なものだ。

 ヒットポイントがなくなった生物は無防備な状態となる。

 その状態で再度ダメージ、あるいはヒットポイントを大きく上回るダメージを受けたりした際は、気絶、最悪の場合死に至る。

 このヒーリングポーションというのは、失ったヒットポイントを回復する数少ない手段のひとつだ。

 ヒットポイントを回復する手段は、適度な睡眠をとったり、神の祝福を受けた魔法、いわゆる神聖魔法と呼ばれるものがある。

 とにかく生物が生きていくうえで重要なものだ。

 これは持っていくことにしよう。


 赤色の宝玉の方は昔読んだ本で見た覚えがある。

 これは小威力の炎を打ち出す魔法、【ファイアボルト】が込められた魔法道具だったはずだ。

 もしこの先に、敵対的な魔物が待ち構えていたら、対抗するうえで有用なアイテムといえるだろう。

 結構いいもの置いてあるじゃん。

 手に入ったアイテムに満足した私は、戻ってきたジークに戦利品を共有する。


 聖火を手に持ったジークが、


「男の俺が先頭にでる。」


 と言ってきかなかったため、私はしぶしぶジークに先導を任せた。

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