エレノアとジーク①

 ここダルグ村にはと呼ばれる慣習がある。

 なんでも、ダルグ村は古くからと呼ばれる強大な存在に守られてきていて、この村の大人たちのほとんどが、この天竜を崇めているらしい。

 この世界は、さまざまな神が信仰されている多神教の世界だから、なにを信仰していようが個人の自由だけど、まさか神ではなく竜を信仰しているっていうのが面白い。


 さて、話を戻そう。

 成人の儀は、3月に行われる、その一年間の間で15歳、すなわち成人に達した者たちが、本当に大人の一員としてふさわしいのかどうかを試す儀式だ。

 成人の儀をこなし、晴れて大人として認められたものは一人前として扱われ、村の出入りの自由が許される。

 村に残るのであれば、村で行われている大人たちの話し合いの場に参加することもできる。


 成人の儀はそこまでおよび腰になる程のものじゃない。

 やることはいたって簡単で、村にある聖火を携え、天竜が棲まうと言われる赫灼山にある儀式上に火を灯す。

 火を灯し祈りを捧げたら、そのまま村に帰ってくるだけだ。


 もう何度目かになるそんな話を、私エレノア=ルーズヴェルトは、朝ご飯を食べている時分に、義父のルドルフ=ルーズヴェルトから話された。

 成人の儀は明日行う予定らしい。

 話を承諾した私はそのまま日々のルーティンを行うべく、義母コニー=ルーズヴェルトに見送られて家を後にした。


 私の一日は朝食を食べ、義父の仕事である木々の伐採・管理をするところから始まる。

 私は華奢な体の割に力持ちなようで、義父の木こりの仕事や大工の仕事を手伝うことができた。

 斧を扱うのは始めてだったが、意外としっくり来た。

 義父は斧を扱うのは苦手だと言っていたが、私から見たらそんなことはないと思う。

 義父は元々、王都の方などで冒険者として活躍していたらしい。

 その立ち振る舞いからは、一切の隙を感じさせないほど。

 優しい笑顔の義父が、常に周囲に気を配っているのだということを最近になって思い知らされた。

 それを感じ取れるようになったのも、ひとえに私も強くなっていっている証であると考えれば落胆は少ない。

 それほどまでに義父は優れた武芸者なのだろう。


 父の仕事を手伝い昼食をとった後は、お腹を休ませるため趣味の読書を行う。

 ダルグ村には数日に一度、バルム砦と呼ばれる大きな町から行商がやってくる。

 その行商が持ち込んだ数々の蔵書を義母に買ってもらうのだ。

 買い込んだ蔵書はさまざまだ。

 娯楽小説だけでなく、情報収集を兼ねて数部の新聞や教養を深めるためのさまざま専門書など、枚挙にいとまがない。

 義母は「勉強熱心ね。」と喜んで買ってくれた。


 軽く読書を済ませたら、今度は鍛錬の時間だ。

 私にはどうして果たさなければならない夢、いや野望がある。

 その野望を叶えるためには今以上に強くならなければならない。

 強さを手に入れた先にこそ、私の理想はある。

 今日も今日とて村の外れにある森の中で訓練を積んでいると、おせっかい焼きのあいつがやってきた。

 最近のあいつはめきめきと成長してきていて、ついにこの間私に勝ちやがった。

 むかつく。

 今日は絶対に負けてやらない。

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