第23話 朝

 翌日、

 気が付いたら、朝を迎えていた。


 あの後も佐奈さんといろんなことについて話し合っていたのだが、2時になったあたりでどうやら私が寝落ちしてしまったらしい。


「おはようー、想乃ちゃん」

「あ、おはようございます」


 ちなみに今日も休日だったりするので、特にこれといった用事もない。


「あ、朝ごはん。パンだけど、焼いておいたよ」

「え、あ、ありがとうございます・・・!」


 どうやら佐奈さんが朝食にパンを焼いてくれたらしい。

 こうしてみると、佐奈さんがお母さんなんじゃないかと錯覚してきてしまう。


 最近は朝食を取ることすらあまりしなくなってしまったので、こうやってパンを食べるのも久しぶりかもしれない。

 しかも、人と朝食を食べるなんていうことはもうずっとしてこなかったので、ちょっと嬉しい。


「というか、想乃ちゃんってふだん朝ごはん食べてるの・・・?」

「あ、いやーその・・・あはは」


 いやー、佐奈さんには何もかもお見通しなのかもしれない。


「ちゃんと朝ご飯食べないと健康に悪いよ?想乃ちゃんって最初は家事とかできる女子力高い系かと勝手に思ってたんだけどね・・・」

「あ、いや・・・」


 もしかして幻滅されていたのだろうか。

 そしたら、ちょっといやだな――


「あ!でも別に見損なったとかそういうわけじゃないよ?これもこれでちょっといいかなあって・・・あ、いやいいっていうのはそんなに深い意味はなくて――」

「な、ならよかったです・・・」

「ほら、こうやって本当の姿を知れるってなんかいいじゃん。今のところは二人だけの秘密って感じで」


 たしかに二人だけの秘密っていう言葉の響きはものすごくいいかもしれない。

 でも、その秘密の内容が私が家事ができなくて、部屋も汚いとかそういったことじゃなければね?


「あ、そういえばさ。チャンネル登録者数見た?」

「え、いや。見てないですけど・・・」

「見てみなって」


 そう言われたので私は自分のPouTubeのページを開いた。


 こ、これは・・・


「10万人・・・?」

「おめでとう」

「これって・・・」


 私のチャンネル登録者数はつい2日前のぷちバズで7万人到達したばかりだった。


「昨日のオフコラボがまたウケたみたいだったねー。私のチャンネルも登録者が9万人になってたよ」

「10万人ってあんまり現実味がないですね・・・」

「そうかもねー」


 そんなに一気にチャンネル登録者なんて増えるものなのかとは思ったが、今は大インターネット時代。正直何が起こるかなんてわかったものじゃない。


「これじゃあ、近いうちに10万人記念配信もやらなきゃだね♪」

「あ、ああ・・・こういうのって何やればいいんですかね・・・?」

「でも、それこそ人それぞれじゃない?雑談とか歌枠とか。あとは凸待ちとかは定番かもねー」

「凸待ち・・・」


 凸待ちと言われても私はまだ佐奈さん以外の人とコラボしたことはないし、そもそも一回の配信でそこまで多くの人と話せる自信はない。

 だから凸待ちはまず選択肢としてはないだろう。


「でも別に配信にこだわる必要もないと思うよ」

「え、」

「動画とかでも、別に私はいいと思うけどなー」


 動画、動画・・・


「あ!」

「お、何か思いついた?」

「あ、あの・・・よかったらなんですけど、私と歌ってみたやりませんか?」


「・・・え!?」

「あ、ムリだったら別に大丈夫なんですけど・・・」

「やるやる!」


 なぜ歌ってみたをチョイスしたのかというと、以前の配信でいつか歌ってみたを二人でやりたいと言っていたことを思い出したからだ。

 それに早かれ遅かれ私たちは歌ってみたをすることになるならば、このタイミングでやるのが一番いいのではないかと考えたのだ。


「それと、よければ佐奈さんの10万人も達成したタイミングで二人の10万人記念みたいな感じで動画だしたいなあって・・・」

「え、いいね!それ。めちゃくちゃいいよ・・・!」

「あ、あ」


 どうやら佐奈さんにウケたらしい。

 さっき佐奈さんもチャンネル登録者が9万人と言っていたので、せっかくならば二人が10万人を達成したときに動画を投稿するのが、一番いいんじゃないかとそう思った。


「それじゃあ、マネージャーさんには私から話を通しておくね!」

「あ、お願いします・・・!」


 どんなふうになるかはまだわからないけど、それでもいいものにできたらいいなと。私は心の中で思うのであった。

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