第21話 お風呂①
「いやー、想乃ちゃんのおうちのお風呂。大学生の一人暮らしのおうちにしては結構いいよね」
「そ、そうですか・・・?」
まあ、私はもともと趣味という趣味もなければ、特定の友だちと遊びに行く機会もないので、あんまりお金を使わないので家にそこそこお金を掛けていてもあんまり問題はなかった。それに私の家は自慢ではないが、人様の家よりも裕福であったりもして、親がそこそこな額の仕送りをしてくれたりしている。
正直、散財するような機会もなく、貯金が溜まっていく一方なんだけども・・・
「あ、そうだ!せっかくだからさ、お互いを洗いっことかしてみない?」
「あ、洗いっこ・・・!?」
つ、つまりそれって私が佐奈さんの体を洗ったり、佐奈さんが私の体を洗ったりするってこと・・・?
そ、それって普通にお風呂入るよりもハードルが高いというか・・・というか、すでにお風呂には入ってるんだけど。だけど、それにしてもすでに私は限界寸前みたいなところまで来ているのに・・・佐奈さんは私をどうしたいっていうのさ!
「え、えっと洗いっこはさ、さすがに・・・」
「さ、さすがに・・・?」
「やー・・・りましょう!」
「やったあー、じゃあまずは私が想乃ちゃんの身体を洗ってあげるね♪」
負けてしまった。佐奈さんにあんな今にも泣きそうな顔をされたら、断るにも断れなかった。
今日、私は一つ分かったことがある。それは、私が佐奈さんの涙目や上目遣い、お願いに弱いということ。
そもそも佐奈さんを私の家にあげてしまったのも、佐奈さんの上目遣いに負けてしまったからで・・・私とはほどほどに年の離れた年上のお姉さんのはずで、あんなにスタイルもよくてTHE・大人みたいな人なのに、時折見せるそんなかわいらしい姿・・・勝てるわけにないじゃん。
「ずるいです・・・」
「んー、何がずるいの?」
「あ、いや・・・なんでもないです」
そんな風にいろいろと考えていたら、佐奈さんはもう既に私を洗う準備が整っていたようで――
「じゃあ、想乃ちゃんの髪から洗っちゃうねー」
「あ、はい・・・お手柔らかに・・・」
「大丈夫だよ!でも、想乃ちゃんの髪ってすごくきれいだよね。手入れが行き届いているというか・・・でも髪の毛は長いし、」
「それは昔からお母さんが髪の手入れはしっかりしたほうがいいって言われていたので・・・」
「それはそうだねー、じゃあお母さんに感謝だね」
昔からお母さんから髪の手入れはやっといたほうがいいと言われていた。当時から髪を切らず、というか、なるべく床屋さんに行きたくないから、その理由付けみたいな感じでもあったけど・・・まあ、とにかく手入れはしておいたほうがいいと言われていた。
だから、一人暮らしをしてからも一応髪の手入れはしていたわけで・・・改めてこうやって褒められるのもなんだかんだ嬉しかったりする。
「よし、シャンプーはこれで終わり!じゃあ、一回お水で流しちゃおっか!」
「お願いします・・・!」
そういって佐奈さんにシャワーでシャンプーを洗い流してもらった。目に水が入るのはあまり好きではないので、私はいつも目を閉じてシャンプーを流している。まあ、だからなんだという話ではあるのだけど。
「はい、想乃ちゃん終わったよー」
「あ、はい」
「じゃあ、次はトリートメントだね」
そういって次はトリートメントで洗い始めてくれた。佐奈さんが終わったよとわざわざ言ってくれたのは、佐奈さんなりの気遣いなんだと思う。
きっと佐奈さんは私がシャワーでシャンプーを流しているときに目を閉じていることに気が付いたんだと思う。
でも、それには触れずにいたのことを含めて佐奈さんの気遣いだったんだと思う。
「優しいですね、佐奈さんは」
「そうかなー」
照れるように佐奈さんは私に返事を返してくれた。
優しいですよ、佐奈さんは。少なくともここまで私が生きてきた20年間、こんな人には出会ったことがありませんでした。
こんなコミュ障で陰キャな私に構ってくれる人なんて今まで出会ったことなかったんです。佐奈さんは教えてくれたんです。友人というものが何かを。
「優しいんですよ、佐奈さんは」
「じゃあ、その言葉。素直に受け取っておくね」
「はい」
「じゃあ、想乃ちゃんにもお返しだよ。想乃ちゃんだって十分に優しいし、何より偉いと思うよ」
「え、らい・・・?」
私が偉い・・・?
「だって、想乃ちゃんは誰よりも頑張り屋さんっていうことは、まだたった数週間の中である私にも伝わったよ?」
「そ、そうですか・・・?」
「そもそも、VTuberになることだって、オーディションを受けることだって、簡単にできる話じゃない。それに加えて、一人で配信できるようになったことだって、想乃ちゃんにとっては、大きな一歩だと思うよ」
きっと佐奈さんは私のことをよく見てくれていたのだと思う。それに気にかけてくれていたのだろう。
だから、きっと私が頑張っていたことも知っていたんだと思う。
そうか、私って――
「偉いんですかね」
「想乃ちゃんは偉いんだよ」
「あはは・・・そうですか!」
私はまた大きな一歩を踏み出せたような、そんな気がした。
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