第13話 緊張
ホラーゲーム配信から1週間が経った。
あの配信の後も私は何回か佐奈さんと一緒に配信をしていた。
そして、今日の配信が終わった後、佐奈さんからあの話を切り出された。
『想乃ちゃん、前のホラーゲーム配信の終わりに言ったこと覚えてる?』
「あ、もしかして・・・私一人で配信するっていう話ですか?」
『そうそう、想乃ちゃんさ。確実に回を重ねるごとに配信慣れしていってると思うんだよね』
「・・・そうかもしれないですね」
『やっぱりここで一回、一人で配信してみない?』
私はどうするべきなのだろうか。
でも、きっとここで動かなければ私はいつまでもこの状況に甘え続けてしまうだろう――
「私、やってみます・・・!」
『そ、想乃ちゃん!成長したね・・・』
佐奈さんにしみじみと言われてしまった。まるで長年私のことを見てきたかのような感じになっているけど、実際のところはまだ2週間ほどの話だったりする。
でも、私にとっては・・・私と佐奈さんにとっては短いようで長い2週間だったかもしれない。私もこんなに人と話したのは久しぶりだったけど、思ったより人と話すのって悪くないなって思えた気がする。
あ、でもまだリアルで人とは話せてないんだけどね・・・ははは
「だったら、もう明日とかに配信してみようかな・・・」
『おお・・・!」
「なんなら告知ポストとかももうしちゃおうかなあ?」
『想乃ちゃん?!』
調子に乗っているように見えるかもしれないけど、決して調子に乗っているわけでない・・・わけではない。
ただ今ポストするのは明日の私を逃げれなくするためでもあったりする。実際、今ポストしてしまえば、明日になって『もうやめる!』ができなくなってしまうしね。
『で、でもあれだからね。本当にしんどくなったりしたら、配信の途中でも私のこと呼んでもいいからね・・・?』
「で、できれば呼ばなくて済むようにしますね・・・!』
うん、できれば。
あれ、もしかしてもうすでに弱気じゃない・・・?
『ま、配信はちゃんと見ておくからね。想乃ちゃんの配信が成功するように見守っておくからね・・・!』
「お、お願いしますね・・・!」
そして、そんなやり取りをした次の日。
私はすでに死にかけていた。配信1時間前になった今、私は猛烈な腹痛と吐き気と、それといろいろ。
「昨日の私、よくもやってくれたな・・・」
勢いで告知ポストをした昨日の私のことを恨む私だったが、結局昨日の私の狙い通り後には引き返せなくなってしまった。
佐奈さんはいつ呼んでくれてもいいとか言ってくれたけど、そんなことはできない。
「ここはやっぱり佐奈さんにかっこいいところを見せて安心させてあげなきゃ・・・」
これでもライバー活動をはじめてから3週間に差し掛かろうとしているのだ。配信もある程度数を重ねてきたし・・・大丈夫なはず。
一応今回は雑談配信。雑談配信はゲリラコラボ以降一回もやってこなかった。
でも、ここでもう一回一人で雑談配信をすることに意味があるんじゃないかなと思って今回は雑談配信をすることにした。
話のネタが尽きないように初配信の反省も含め、今回は話す内容リストや視聴者からの質問boxも集めてきた。あとは、余裕があったら視聴者さんのコメント拾えたらいいな・・・
「本当にうまくいくかな・・・」
不安に思っているなか、佐奈さんからのメッセージが届いた。
笹川桃【空乃ちゃんならきっとできるよ!頑張って!】
きっと佐奈さんのことだから私が今、不安になっていることを見越してこのメッセージを送ってくれたのだろう――
如月空乃【桃さん、ありがとうございます・・・!】
なんだか、少し緊張がほどけた気がする。これも佐奈さんパワーといったところだろうか。
「初配信から進化した私を見せるんだ・・・!」
あの時の私とは違うんだといったところを見せていかなきゃいけない。事務所の先輩や同期、マネージャー。そして、佐奈さんのためにも。私ばっかが足を引っ張ってばっかりなわけにはいかない。
配信開始まで残り1分だ。
なんだか不思議な気持ちだ。数分前まで緊張でどうこう言っていた私だが、パソコンの前に立ったら少しわくわくしてきた私がいる。
たしかに緊張はするが、この佐奈さんと一緒に配信してきた間にこの配信というもの自体が好きになっていたのかもしれない。
そんなことを考えていたら時間がやってきた。
「皆さん、行ってきます――」
そう言って私は配信を付けるのであった。
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