第9話 帰宅
片付けも終わり、帰ろうとしたところで再び佐奈さんが声をかけてくれた。
「想乃ちゃーん!」
「な、なんですか?」
「そのさ、もう日も落ちちゃったわけだしさ。よければ私が車で家まで送ってあげようか?」
どうしようかな。日が落ちたといっても、まだ6時過ぎだ。とはいえ、電車に乗って帰るのも疲れるわけで・・・
「その・・・いいんですか?」
「もちろん!ぜひぜひって感じだよ」
今回は甘えさせてもらうことにした。
車に乗せてもらい、家の場所を伝えたあとに一つ気づいたことがあった。
「というか、佐奈さんの家ってこっちのほうなんですか?」
「ん?ああ、そうだね。私の家もこっちのほうだね」
「そうだったんですね、ならよかったです。でも家が遠かったらどうするつもりだったんですか?」
「どうするつもりも別に普通に帰るつもりだったよ。まあ、もし県外だったら困ってたかもだけどね」
たしかに。この人は私が県外に住んでいる可能性も考えずにいったのか・・・
まあ、県外住みだったら駅まで送ってもらえばいいだけか。いや、佐奈さんだったら県外でも車で送ってくれた可能性とか・・・?まあ、そんなことはどうでもいいか。
「まあ、私は想乃ちゃんと違って大学とか会社で働いてるとかいうわけじゃないから、明日も暇だからね」
「あ、そうだったんですね」
そういえば初配信でもそんなことを言っていた気がする。会社が潰れたとかどうとか。
「でも、想乃ちゃんは明日大学?」
「あ、そうですね」
「いいね、青春してるって感じで」
言えない。友達0人でいつも一人で大学生活を送っているなんて・・・
「ハ、ハイ・・・ソウデスネ」
「どうしたの、想乃ちゃん。そんなに片言になっちゃって」
「い、いえ・・・」
なんというか、佐奈さんに気を遣われたのか、このあと大学に関する話はなにもされなかった。
「あ、そういえば。結局お出かけもあんまりできなかったよね。ごめんね!私が配信するって言いだしちゃったから!」
「だ、大丈夫ですよ・・・!それに配信も案外楽しかったので・・・」
そう、それは本心だ。初配信のときと比べて今回の配信は楽しく感じた。これは配信に慣れた・・・というよりは佐奈さんが私の緊張をほぐしてくれたからだろう。
「でも、また今度絶対お出かけには行こうね!」
「は、はい」
「そのときにまたいろいろ買ってあげるからね!」
「い、いえ!それは・・・」
たしかにあんまり買い物はできなかった。けど、佐奈さんにはファミレスに行った際に奢ってもらったので、これ以上はもう申し訳ないのだ。
「まあ、まあ。こういうときは素直に奢られておきなって」
まあ、でもこの佐奈さんのことだ。絶対私にお金を払うことを譲らないで私が結局押し負ける未来しか見えない。
「でも今度はカラオケとか行きたいね!歌ってみたも投稿するって話しちゃったし」
「そうですね」
「でもカラオケは配信ではできないからねー。そこはちょっとあれかもだけど、まあ私たち二人だけで楽しんじゃおうか!」
こうやって私たち二人の今後の予定が決まっていくのであった。
「あ、それとさ。次回の配信だけど、いつがいいとかある?」
「そ、そうですね。一応今のところは明後日の夜に配信しようかと考えています」
「明後日の夜ねー、そこなら私も問題ないかな」
「ならよかったです」
無事に次回の配信予定も決まったところで、佐奈さんが切り出してきた。
「あ、そういえばさ。配信内で言ったあれ。あれは本当だからね」
「あれですか・・・?」
あれとは一体なんのことを指しているのだろうか?
「あーごめんね。あれっていうのは、想乃ちゃんが配信慣れしてもしなくても、ずっとこのままコラボし続けても大丈夫だからね?って話」
たしかにそんな話もしていた気がする。でも、きっとこれは佐奈さんなりの優しさなのだろう。私としてももちろん佐奈さんと一緒に配信をしたほうが安心するけど、それでもいつか一歩踏み出さなきゃいけない日は来るんだと思う。
「でもさ、いつか想乃ちゃんが立派になって一人で配信するようになってもさ。定期的にコラボしてくれたら嬉しいかな・・・?」
「そ、それはもちろんです・・・!」
そんなの当たり前だ、ユニット名まで決めたんだ。私が一歩踏み出すその日が来たとしても、佐奈さんと一緒に桃の空を続けられたらと思う。
まあ、その一歩踏み出す日がいつになるかは置いておいてね、
なんというか、頑張ろう――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます