第6話 お出かけ
「あ、そういえばこれ手土産です」
そういって私は渡し忘れていた手土産を佐奈さんに渡した。
「え、わざわざありがとう!でも、ごめんね。私何も持ってきてないや」
「い、いえ。私が勝手に持ってきただけなので・・・」
「え~でもな、そうだ!じゃあ、今度さ一緒にどこか出かけようよ。その時に私に何かを奢らせてよ」
「い、いや・・・別にそこまでしてもらわなくても」
「ダメ!そうしなきゃ私の気が済まないから。だから、ね?」
そういって、結局佐奈さんに押し流されてしまった。というか、地味に今後一緒にお出かけすることになってない?
「まあ、今日はさ。顔合わせのために集まったわけだしさ、特に何かするって決めてたわけじゃないしさ、この後どうしようか?」
たしかにそれもそうだ。ここは事務所の会議室の一室であり、特に何か物があるわけでもない。正直、このまま話し続けるのも難しいかもしれない。
「そうだ、それならさ。このまま出かけにいっちゃおうよ」
「え?」
「いや、なにか奢るって話もしたし、ちょうど良いかなあって」
たしかに、どうせ今後でかけるのであれば今日一緒にでかけておいたほうが良いかもしれない。
「そうですね。じゃあお願いします」
そういって、私たちは街中へと繰り出すのであった。
「――どうする?せっかくだったら、もうお昼時だし、ごはんから済ませちゃう?」
現在時刻は11時を過ぎたくらい。たしかにそろそろお店も混みあってくるような時間帯だしちょうど良いかもしれない。
「そうしましょうか」
「じゃあ、どうしよっか。あ、あそこにファミレスあるしさ、あそこにしない?」
「そうですね、じゃあそこに行きましょうか」
そうして、ファミレスに入ってからしばらくした後に、佐奈さんが言ってきた。
「想乃ちゃん、変わったね」
「急にどうしたんですか」
「あ、ごめんね。急にこんなこと言っちゃって・・・でもさ、想乃ちゃん今日の朝会ったときよりもさ、私の顔見て話せるようになっているしさ、少しだけど私に本当の自分を見せてくれるようになってるっていうかさ。あ、でももし勘違いだったらちょっとアレかも・・・」
たしかに佐奈さんの言う通りかもしれない。朝会ったときよりも確実に対面で話しても緊張することはなくなった。
それに――
「佐奈さんと一緒にいると・・・何というか安心するんですよね」
一瞬の静寂が訪れる。いや、よくよく考えると私はなんてことを言っていたんだと。そう思って顔が真っ赤になりはじめる。
そんな私を見て佐奈さんは笑い始めた。
「そんな想乃ちゃんの顔、今日初めて見たよ!いいじゃん、可愛くて」
そんなことを言われて私はまた一段と顔が赤くなってしまった。
「い、いや・・・」
「もっと私に可愛い想乃ちゃん見せてほしいなあ~」
「お、追々・・・?」
追々なんて言ってしまったが、可愛い自分って言われてもよくわからない。そもそも私自身がそんなに可愛いのかもよくわからない。
「じゃあさ、この後。ゲリラコラボ配信でもしちゃおうよ!」
「ええ?!」
今日のこともそうだったが、佐奈さんはいつも思い付きでなんでも行動しちゃうような人なのかもしれない。私には絶対にできないことなので、とにかくすごいなとしか思うことができない。
「今からマネージャーさんに許可取ってみるからさ」
そういって佐奈さんはスマホを取り出し、メッセージを入力し始めた。どうやら本気で配信をするつもりらしい。
「問題ないってさ!」
「おお・・・」
そんなにあっさりとOKってでるようなものなのだろうか?
「でも、配信ってどこでやるんですか・・・?」
「あ、たしかに・・・?」
佐奈さんもそこまでは考えていなかったらしい。
「う~ん。事務所の会議室。また貸してもらえないかな~」
そういって、マネージャーさんに再びメッセージを送った佐奈さんだったが、どうやら今日1日は元々私たちのために会議室は借りていたらしく、特に問題ないようだった。
こうして、ご飯を食べ終えた私たちは街中を少しぶらぶらしながら事務所に戻っていくのであった。まあ、元々は外食をするために出かけにきたわけではないので、せっかくならということで、少し買い物をしつつ戻ることにした。
この最中にちょっとした事件が起きた。
それは佐奈さんがお手洗いに行っている最中だった。
「君、可愛いね。俺と一緒にこれから出掛けない?」
ナンパされてしまった。
マズい。本当にこういう人っているんだ。
恐らく歳は高校生くらいといった感じだろう。年下であるからといっても私にどうこう言えるような勇気はなかった。
「あ、っとえっと・・・」
「ほら、俺。楽しいところとか知ってるからさ。一緒に行こうぜ?」
ダメだ、どうしよう。このままじゃ本当にこの人に連れ去られてしまう。
何か言わなきゃ、断らなきゃ。そう考えていたときだった――
「はいはい、お子様は帰りな。この子が嫌がってるのわからないの?ほら、行くよ想乃ちゃん?」
「あ、はい・・・!」
このときの私の顔はどんな顔をしていたのだろうか。
でも、きっと。私はこの瞬間、佐奈さんに対する何かが―――
変わった。
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