第5話 笹川桃

 私、辻佐奈はVTuber事務所『viglow』に所属する3期生『笹川桃』として活動をしている。まあ、活動をしているといっても、数日前に初配信をしたばっかりの新人VTuberなんだけどね。


 それで突然なんだけど、私には最近気になっている子がいる。それは同じ3期生で同期の如月空乃さんだ。デビュー前に行われた3期生全員の顔合わせで風邪だとかで唯一参加しなかった子だ。

 そんな彼女の初配信を見て私は興味を持った。なんというか、彼女には怯えている小動物的な可愛さみたいなものがある。そんな彼女を見てなんというか放っておけないみたいなみたいな、そんな風に感じた。

 まあ、ただのお節介である。


 数カ月前まで働いていた職場でも私はこんな感じだった。なんというか、困っている後輩を見たら放っておけないみたいな。


 じゃあ、その会社はどうしたのかって聞かれたら、その会社は経営破綻で倒産しちゃった。別に悪い会社ではなかったと思う。ただご時世的な問題とか色々あったんだと思う。

 そんな中、会社員時代の空いた時間とかに見ていたVの子の事務所がオーディションをやるって聞いて、試しに受けてみたら何とか合格できたっていうのが私のデビューまでの成り立ち。試しにって言っても、もちろん全部全力で挑んだからね。


 まあ、話はそれたけど、そんな私が今気になっているのが、如月空乃さんというわけだ。そんな中、なんと彼女と話せるチャンスが私に回ってきたのだ。


マネージャー【笹川さんにお願いがあるのですが、同期の如月空乃が配信に慣れるまでの間、一緒に配信をしてもらえないでしょうか?】


 この話をマネージャーさんからもらったとき、私はとにかく嬉しかった。ようは私が如月さんのお世話係になるということだろう。でも、なんで私なんだろう。ふとそう思った私は聞いてみた。


笹川桃【問題ありません!でも、なんで私なんですか?】

マネージャー【先日の笹川さんの配信で如月さんに興味があるといった発言をしていましたので。それに加えて、笹川さんは如月さんと同姓で社会人の経験があるといったところでしょうか】


 なるほど、同期5人のうち、2人は男性だ。女の子のライバーは私たち2人を除いてあと1人いるが、彼女と比べたときに社会経験がある私のほうになったんだろう。


 でもこれは嬉しい話だ。


「これをきっかけに如月さんと仲良くなれればいいなあ」


 そんなことを考えていたら、マネージャーさんから返信が返ってきた。


マネージャー【如月さんも問題ないようなので、よろしくお願いします。】


 そうしたら、近いうちに顔合わせを済ませたほうが良いだろう。配信の直前に初めて顔合わせするよりも事前に顔合わせを済ませたほうがお互いにとっても良いと思う。如月さんの緊張もそっちのほうが多少は緩むだろうし。配信慣れのためにいる私が彼女のことを緊張させていたら元も子もないしね。


笹川桃【なら、近いうちに顔合わせをしたいと如月さんに話を通しておいてください】


マネージャー【そうしたら、顔合わせなど今後のやり取りは如月さんと直接してもらえないでしょうか?恐らく私を挟んでやり取りをするよりもそちらのほうが効率が良いと思いますし】


 たしかにそれもそうだな・・・

 そう思って、私は如月さんに直接連絡を送ることにした。


笹川桃【如月さん、こんにちは!マネージャーさんから話は通してもらったと思うんだけど、今度顔合わせしないかな?事務所で!】


 何も考えずに気づいたら、この文章を如月さんに送っていた。よくよく考えたら、とんでもないことを言っていると送ってから数秒後にこの文章を見てから後悔した。

 でも案外実際に顔合わせをするっていうのは悪いことではないと思う。実際に顔を合わせたことで距離が縮まって配信が円滑に進みやすくなると思うし、多少の遠慮とかはなくなると思う。


 でも・・・


「これは流石にマズかったよね・・・」


 私たちは今まで何の交流もないのだ。いきなりそんな人から会おうといわれたら引かれてもおかしくない。

 そう思っていたところに如月さんからの連絡が届いた。

 

「引かれたりとかしてないかなあ・・・」


如月空乃【え、えっと。こういう顔合わせって普通通話とかじゃないんですか?】


 そうだよね、そうなるよね。私もそう思うよ。

 いや、でもやっぱり実際に会ってみたほうが良いと思うし――


笹川桃【普通はそうだけどさ、如月さん可愛かったし実際に会ってみたいなって思ったのと、実際にあった方がすぐ打ち解けられるでしょ?】


 またやってしまった・・・


如月空乃【わかりました。いつ行けばいいでしょうか?】


「え?!」


 まさか本当に会えるとは思っていなかったので、少しびっくりしてしまった。

 いつ行けばいいか・・・でも、こういうのは早い方が良いって言うよね。


笹川桃【明日とかは?】


 いや、流石に早すぎたかも。如月さんが県外に住んでいるとかその可能性を配慮していなさすぎた。それに私は今、Vしかやっていないからいいけど、如月さんは学生さんとか、もしかしたら他に仕事をしている可能性とかもあるだろう。

 こういうすぐになんでもしたがるクセは直さないとだなあ・・・


如月空乃【わかりました。明日、事務所で】


 ええ?!本当にいいの!


笹川桃【やったあ!楽しみだなあ~~】


 まさか、本当に明日会えるとは思っていなかったが、会えることになったので急いで私は事務所に連絡をとって会議室を貸してもらうことにした。


「いや~でも如月さん。どんな人なんだろうなあ~」


 こうして私は明日に胸を躍らせながら眠りにつくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る