第4話 お姉さん

 翌日。

 私はviglowの事務所に来ていた。ここに来たのはオーディションの面接時と、合格してからデビューするまでの間にマネージャーさんと数回お話をしに来たぐらいだ。


 正直、こんなデカいビルに入るのはめちゃくちゃ緊張するわけで、もし階層とか間違ってたらどうしようとか、変な目で見られてたりしないかなとか。とにかくすごい余計なことを考えてから数十分が経過していた。たぶんこんなことしてるほうが余計に変な目で見られるにきまっているのに。

 そうしてようやく覚悟を決めた私は事務所のあるビルへと乗り込む。

 大人の圧が凄い・・・まるでここはお前のようなお子様が入ってくる場所じゃないよと言いたげな感じで。

 とにかくはやく目的の場所まで向かおう――



 そんなこんなで目的の地にたどり着くことができました。

 さっき連絡があったが、どうやら笹川さんは第3会議室で待っているとのことらしい。それはいいんだけど、いざその扉を目にするとなんというか、緊張するというか・・・いや、でもここで開けないといつまでたっても――

 そんなことを考えていたら後ろから肩をたたかれた。


「ひゃっ?!」

「えーっと?もしかしたらだけど、君が如月さん?」


 も、もしかしてこの声は・・・


「あ、あなたが笹川さんですか・・・?」

「そうだよ~私が笹川桃、またの名を辻佐奈つじ さなっていうかな」


 輝かしい笑顔で笹川さん、いや辻さん・・・?はそういう。

 こういうときはどちらの名前で呼んだほうが良いのだろうか。


「あ、ここは事務所だし、どっちの名前でも好きに呼んでもらって構わないよ。でも、流石に外では辻さんとか佐奈さんとかって呼んでほしいかな~?」

「わ、わかりました・・・」

「とりあえずさ、ずっとここで話しててもおかしな話だし、中で話そうか?」


 すごい・・・大人のお姉さんといった感じだ。話すのが苦手な私のことも上手く話せるように誘導してくれているというか、とにかくこんなに人と対面で上手く話せたのは本当に久しぶりかもしれない。聞き上手話し上手といった感じだ。すごい。

 あ、そういえば、私の名前いうのを忘れていたな・・・


「あ、あの改めまして如月空乃です!えっと、本名は岡本想乃って言います・・・」

「へえ~想乃ちゃんね」

「っ?!」

「あ、ごめんね。でも、これから想乃ちゃんって呼んでも大丈夫?」

「あ、いえ・・・別に」


 正直ただ下の名前で呼ばれたことにびっくりしてしまっただけだ。普段呼ばれなれてなさすぎて。


「それにしても想乃ちゃんってかわいいね。中学・・・それはないか、高校生とか?」

「大学3年生です・・・」

「え?!ごめん!いや、それにしても若すぎるというかかわいすぎるというか・・・」

「ムリしてフォローしなくても、言われ慣れてるので」

「いやいやごめんね――」


 そう、私はよく容姿を中学生あたりと見間違えられたりする。さっきは言われ慣れているといったが、やっぱり正直にいうと少しくるものがあるのは事実である。


「別に大丈夫ですよ」

「本当にごめんね!あ、というか今日、勢いで誘っちゃったけど大丈夫だった?」

「あ、いえ。休日だったので、特には・・・」

「ならよかったよ~」


 笹川さんは安堵した様子を見せる。

 というか、私も合わせて辻さんって呼んだ方が良いのかな・・・


「辻さん・・・」

「おお・・・!」


 辻さんの目がキラキラと輝いた。


「うう~ん、でももう一声欲しいかな~。やっぱり私は下の名前で呼んでるわけだしさ、私のことも下の名前で呼んでほしいなあ~ってね」

「え、えっと・・・佐奈さん・・・?」

「おお・・・破壊力抜群だ」


 佐奈さんの目がさっき以上に輝かしくなっている。


「まあ、本題に入ろうか。今回はさ、想乃ちゃんが配信に慣れるまで私が付き添いというか介護というか、まあそんな感じでコラボすれば良いんだよね?」


 佐奈さんがそう尋ねてきたが、私としてはマネージャーさんに言われるがままにこうなっただけなので、正直どんなふうにすれば良いのかは私にもわからない。

 というか、そもそも私が配信に慣れる日なんてくるのだろうか。


「え、えっと、私が配信に慣れる日がくるかわからないんですが、それでもいいんですか・・・?」


 私は気づいたらそんなことを佐奈さんに聞いていた。まだ会って1時間も経たないほどではあるが、すでに私の中の佐奈さんの信頼度は天元突破していた。ここまで人と喋ったのも久しぶりだし、佐奈さんには謎の安心感みたいなものがあった。この人とだったら、配信もできるかもしれない。


「もちろん!こんな天使みたいな子のお願いだったら聞いちゃうかなあ~」

「っ!」


 そういって佐奈さんは私のことを抱きしめてきた。ごめん、やっぱりこの人私のことを中学生とかと思っているだけかもしれない。

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