23 朝
「ん…」
目が覚める。
中途半端に開いたカーテンから、光が差し込んでいる。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
(あれ、昨日って…)
目覚めたばかりで回らない頭を稼働させるようとする。頭も体が動かない。
(今、何時…?体、重…)
目が覚めてくると、自分の体に背後から腕が回されていることに気付いた。背中から伝わる温もりと耳元で聞こえる静かな呼吸音。
振り向くと、そこには蒼生の寝顔があった。
そこで一気に頭が回り出す。昨夜のことをあれこれと思い出してしまい、顔が赤くなるのを感じて、誰も見ていないのに両手で覆った。
(ああ、なんてこと…!)
でも、目を閉じたら閉じたで、蒼生や自分のあんな姿、あんな声がよみがえってきてしまう。
何度か深呼吸して、自分を落ち着かせると、俺は蒼生を起こさないように慎重に腕をよけて、ベッドからそっと抜け出した。
(う、痛…)
全身の関節がギシギシするような感じと倦怠感。でも気分は悪くなかった。そのまま、ベッドの横に膝を抱いて座り込む。改めて自分の体を確認する。
(Tシャツ着てるし、パンツもはいてる…)
あんなに汗やそれ以外のものでベタベタしていたはずの体も、なんだかさっぱりしている。
自分で何かした覚えはないから、蒼生が体を拭いて、服を着せてくれたんだろう。
こういうところまで「妄想」「自習」したのかな、と思ったら、顔が緩んでしまった。
その時、床に置いた手になにかが当たる。それは文庫本だった。ベッドの脇に堕ちていた、あのライトノベルを拾い上げて、眠っている蒼生と、表紙の剣士を見比べる。
「?そうでもなかったな…」
あんなに「似てる」と思ったのに、あの時、あんなに動揺したのに、実際に見比べたら思ったほど蒼生と「剣士」は似てなかった。
パラパラとめくり、主人公と剣士が初めて愛し合ったときのイラストが目に止まる。主人公は初心者だというのに、剣士が「もう止まらないんだ…」とか言いながら、結構自分本位に攻めまくっている。
改めてその場面を読み返して、
(これは俺には無理だって…)
そう思った。
こうして見ると、
「蒼生の方がかっこいい。それに、ずっと優しい…」
(全然、似てない)
昨夜ずっと、自分を気遣いながら、丁寧に抱いてくれた蒼生の、手や唇、体温を思い出し、また、照れて赤くなってしまう。
静かに振り向くと、蒼生は穏やかな寝息をたてていた。
「ふふ、しあわせ…」
自然に口をついてでた言葉に、また赤くなる。
ベッドヘッドの時計は、まだ、起きるには少し早い。かと言って二度寝するほど眠くもなかった。
「あ、そうだ」
(朝御飯、作ろ)
俺は立ち上がった。立ち上がったら、体は痛いし、腰や股関節に違和感はあるしで、少しよろよろしてしまった。けど、それすらしあわせに感じている自分に気付いて、苦笑いする。
(大概だな~、俺も…。…冷蔵庫、なにあったかな)
キッチンに続く戸をそっと開けながら、
(そう言えば…)
アパートに誰かを泊めるのは初めてだったな、と思う。
(ここで、誰かのために朝御飯を作るのも…初めてだ)
また、蒼生との「初めて」が増えた。
そのことが、この上なく嬉しい。
「…しあわせ」
また、つい声に出してしまう。
まだ寝ている恋人が「おいしい!」と喜ぶ顔を想像しながら、俺は、しあわせな気持ちで冷蔵庫を開けた。
終
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