⑮告白

「は?え?…」

(好き…?それって、そう言う意味…だよな?)

驚いた。驚きすぎて、何も言えなかった。動けなかった。時間が止まったみたいに、回りの音も聞こえなくなったように感じた。軽く混乱していた。

蒼生は、ハンドルを握っていた俺の手を離させると、スタンドを立て、自転車を歩道の端に寄せた。蒼生は冷静だった。

俺が動けずにいると、蒼生が向かい合わせに立つ。並んで歩いている時より、ずっと距離が近い。蒼生の顔を見上げる形になって、二十センチの身長差を改めて感じた。

「ごめん、突然…」

蒼生の言葉で、ゆっくりと時間が流れ出した。

「…えと、いつから?」

まだ混乱していたが、辛うじてそれを尋ねた。蒼生は少し考えて、

「…はっきり自覚したのは、中二の時だと思う」

五年前。ドキッとした。それは、俺自身が蒼生への気持ちを自覚した時期と重なっていたから。

「そ、そっか…」

何て言っていいか分からず、蒼生もなにも言わなかった。

「あのさ…」

先に口を開いたのは蒼生だった。言いにくそうに目を伏せる。

「侑李くん、泣いたことあったでしょ?」

「あ…」

その時のことを思い出し、ざわりと、体の中から冷えていくような感覚があって、俺は少し冷静になる。

「俺の言葉で、すごく嫌な思いさせた…」

(覚えて、たんだ…)

そのことに少し驚く。ただ、あの時俺が泣いた理由を、蒼生は勘違いしたままだ。

ー侑李くんは、可愛いねー

嬉しかった。嬉しくて、蒼生への思いを自覚した。自覚して、恥ずかしくなって、気持ちが昂って、

(涙が出たんだ…)

「今さらだけど…」

蒼生が鼻の頭を掻く。

「からかったとか、そういうわけじゃなかったんだ」

「え…?」

顔を上げると、蒼生は、ばつが悪そうにしながらも視線を合わせてきた。

「あの言葉はからかったわけじゃなくて…あの時はホントに、そう思った…。今も思ってる。侑李くんのこと、『綺麗』とか『可愛い』って。俺、侑李くんが笑うと『抱きしめたい』とか、思っちゃうよ」

蒼生が珍しくよくしゃべっている。

「え、と…」

「今だって、ドキドキしてる。一緒にいたくて、侑李くんが『必要ない』って言っても、家まで送ってる…」

蒼生の顔が真剣な表情になった。

「俺、侑李くんが好きだ」

一旦覚めた熱が戻り、顔が体が熱い。

「あ…!」

突然蒼生が、慌てたように声を上げた。

「ご、ごめん!」

「あ…」

俺は自分の涙に気付いた。

「嫌、だよね?ごめん、俺の気持ちだけ、押し付けて…」

このままじゃ、あの時と同じだ。だけど、声が出ない…。

「わっ…!」

俺は蒼生のTシャツにしがみついていた。体が勝手に動いていた。

「や、じゃ、ない…」

その言葉をやっと絞り出す。

「いや、じゃ、ない…!お、れも、す、き…!あ、あお、い、の、こと…」

「っ?!侑李くん…」

しゃくりあげてしまい、上手く言葉が出てこない。だけど、

(ちゃんと、言わなくちゃ…)

「おれ、も、す、き。うれし…い。あの、ときだって、ほん、とは…うれ、し…。…っ!」

強い力で体を包み込まれ、頬と唇に何か触れた。

「…ん」

唇に触れていたものが離れる。

一瞬、何が起きたか分からず、俺は固まってしまった。

(抱きしめられて、キスされた)

自分の唇に触れたのが、蒼生の唇だったと気づいて、急に顔が熱くなり、俺は下を向いてしまった。でもすぐに俺は上を向かされた。頬には蒼生の手が添えられている。

「あの時『二度と言わない』っていったけど…」

優しげな、蕩けそうな視線が向けられる。

「…無理だ」

チュッと、触れるだけのキス。

「可愛すぎるよ、侑李くん…」

俺は目を見開いたまま、瞬きもできなかった。

「ねぇ、初めて?」

「え?」

なにが?と、一瞬戸惑ったが、それがキスのことだと気付き、

「あ、…う、うん」

と、取り繕う余裕すらなく、正直に頷くと、蒼生は満面の笑みで、またキスしてきた。俺は目を閉じた。蒼生の唇で俺の口を開かせると、内側まで深く、強く押し付け、吸うようにしてきた。濡れた部分が触れ合って、すごく熱い。

「ん…はぁ…」

唇が離れ、俺はくったりと蒼生の胸に顔を埋めた。

蒼生の腕が、俺の体全体をすっぽりと包みこむ。耳元で蒼生が囁く。

「好きだよ、侑李くん。俺と付き合って…」

「うん…」

三度目の「好きだ」に、胸に顔を埋めたまま頷くと、俺を抱き締める腕に力がこもった。



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