⑬決勝リーグ
高総体の日は、すぐにやって来た。
俺は、会場で開始時間を待っている。
蒼生達のチーム、つまり、俺らの母校チームはベスト4に勝ち進み、決勝リーグですでに二勝している。相手チームも二勝。今日勝った方が優勝というところまできている。
試合前のアップはすでに終わり、両チームとも、選手や監督、マネージャーが円陣を組んで何か話し合っていた。
俺はベンチ裏の二階席からそれを見ていた。
さっき階段ですれ違った相手チームのOBらしい人たちが、
「勝てば、五連覇」
と話していたのを聞いた。
過去四年間の高総体優勝、新人大会でも三連覇中で、今回も最有力の優勝候補らしい。
「部員が多いし、ベンチメンバーの層も厚い」
「常勝軍団だよ。平均身長も高いし…」
昨日、朱夏と蒼生からそう聞いていたので、相手チームのメンバーは貫禄があるように感じてしまう。
(同じ高校生なのに…)
五連覇がかかっているからか、ベンチの雰囲気も緊張感がすごい。
それに対して蒼生達は随分と落ち着いているように見えた。蒼生は俺に気付いて、笑顔で手を振る余裕まであり、周りのメンバーに小突かれていた。二勝同士の戦いは、事実上の決勝戦だというのに、緊張感がなく、俺の方が肩に力が入る。
「頑張れ…!」
思わず声に出て、周りの目が少し恥ずかしかった。
時間になり、スターティングメンバー達がコートに入ってくる。そのタイミングで、
「侑李」
振り返ると、そこにいたのは朱夏だった。
「練習、早めに切り上げてきた」
息が少し上がっている。随分急いで来たみたいだ。俺の隣に座ると、前のめりにコートを覗きこむ。
「今、始まるとこ」
「間に合った…」
すぐに試合開始のブザーが鳴った。
「…すごい」
「ああ」
相手チームは「優勝最有力」と言われている強豪校。言うまでもなく強い。素人目に見ても、シュートが正確で守りも堅い。すごく強い。
ただ、
「負けてない…」
蒼生達も強い。息の合った軽快なパス回しは見ていて気分がいい。蒼生も自分の武器、スリーポイントシュートをすでに三本決めている。
(やっぱ綺麗だな、蒼生のシュート…)
蒼生が点を決める度に、俺はそのシュートフォームとボールの軌道に見とれてしまった。
第三クオーターを終え、その差はわずか五点。
朱夏は、
「…開き直ってるな、良い意味で」
そう言った。
俺もそう思う。相手は強い。でも、それに呑まれることなく、思い切りプレーしているように見える。それは、やけになっているとか、そういうことではなく。
(きっとこれが、蒼生達らしいプレーなんだ)
そう思った。
「参ったな…」
朱夏が苦笑いする。朱夏が三年生の時、高総体で同じ高校と対戦している。それは、うちの高校が初めてベスト4に勝ち進んだ年。
「悔し涙も出ない」
あの時、朱夏はそう言って笑った。それほど完膚なきまでに叩きのめされた。当時一年生だった蒼生達も、それを間近で見ていた。
「相手は強い…けど、蒼生達はすごく、良いチームだ」
朱夏の声には、自分達が到達できなかったところにいる後輩達への惜しみない称賛と、ほんの少しの悔しさが入り交じっているように感じた。
第四クオーター。取ったり取られたり、点差は五点のまま、残り三分を切ったところで、蒼生が四本目のスリーポイントを決めた。
(すごい…二点差)
鼻の奥がつんとする。
お互い、最後の力を振り絞るように攻め、そして守る。相手チームが放ったシュートはリンクに弾かれ、母校チームがリバウンドする。その時点で残り八秒。パスで運ぶがゴール下に入ることができず、スリーポイントラインの外にいた蒼生にパスが回る。三、二…
「行け!」
朱夏が叫び、ホイッスルと同時に蒼生がシュートを放った。
あの紅白試合の時のように、蒼生のシュートは、綺麗な放物線を描いて、ゴールリンクに吸い込まれた。
大歓声…しかし、それを切り裂くようにホイッスルが鳴り響いた。
審判がジェスチャーで示していたのは「ノーゴール」蒼生のシュートは、「ホイッスル後」と判断された。
負けた。あと一歩及ばず。
相手チームのメンバー達が号泣している。熱戦を制した喜び。それとも連覇のプレッシャーから解放された嬉しさだろうか。
そして蒼生達は…笑っていた。天を仰ぐようにして、肩を叩き合って…。一見、どちらが優勝したのか、分からないくらい、蒼生達は晴れ晴れとした笑顔を見せていた。
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