⑩思惑 ~朱夏side~
親友がいる。出会いは中学一年の春だから、付き合いは八年になる。きっかけは、偶然同じ本を愛読していることが分かったこと。
俺の親友は、一見物静かで、可愛らしい見た目をしているが、実はしっかりもので、世話焼き、なぜか料理が趣味。「みんなのおかん」だ。料理好きだけあって、高校の時から、昼休みには旨そうな手作り弁当を持参していた。
「食事係?」
「うん、侑李にお願いできないかな~?と思って…」
親父の転勤に、おふくろが同行することになった、という理由を付けて、親友にそうお願いした。両親がすでに転居済みだと知ると、親友は、「今日から行く」と言ってくれた。
(ホント、世話焼き…。ま、あいつのことが心配なんだろうけど…)
コミュ障一歩手前の、二コ下の弟を思い浮かべる。あいつは、小学生の頃から、異様に俺の親友に懐いていた。
親友と弟。身近にいた俺だから、二人の気持ちには、誰よりも早く気付いた。
ずいぶん前から両思いだったはずだし、二人とももう子どもじゃない。それなのに、何かこじらせてるみたいで未だに「友達」のまま。何かきっかけを作ってやろう。
だから、親父とおふくろに今回の「食事係」の件を提案した。親父もおふくろも「息子が増える♪」と喜んでいた。柔軟で物わかりの良い親で助かる。だが、少しも気が早い。子どもじゃないとは言え、二人とも学生だぞ?
親友と二人、スーパーに買い出しをしていると、周囲が、俺達の方をうかがっている。
(ま、二人がいれば当然か)
俺達はそれぞれ人目を引く。まあ、親友は自分の容姿が視線を集めると気付いていない。俺はずいぶん前から自覚していたけど。
注目されていることに気付かない振りをして、俺は、侑李に顔を寄せたり、手を握ったりする。そのたびに小さな悲鳴が上がっていてちょっと面白かった。
(やっぱ、いるんだな…そうやって見る人たち)
邪な目に少し呆れるが、そう勘違いされるのは、悪い気分じゃない。
「トマトは?」
「買う」
「どれ?」
「お尻の星がきれいなやつ」
「え?お尻?」
親友の尻を触ったら、その手を叩かれた。また悲鳴が聞こえる。
「俺のじゃない。ここ」
親友がトマトを指さした。
「任せる」
「責任重大~。……らい」
「何か言った?」
「ん?」
声に出てた。
(あぶない、あぶない)
何事もなかったように振る舞う。
「…あ、これは?」
「うん、いんじゃない?」
俺の選んだトマトを親友が受けとる。
(…良いよな、『恋人ごっこ』くらい)
このくらい、一瞬の幸せに浸るくらい、こいつにもあいつにも、許してもらおう。所詮、俺のは「ごっこ」なんだから。
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