⑨世話焼き

夕飯の準備はほぼ終わって、時計を見る。

(そろそろ朱夏も帰ってくるかな?)

蒼生が風呂に行って三十分以上経つ。

(長くない?)

自分が風呂にかける時間と比べるとかなり長い。

「中で寝てたり…とか?」

ちょっと心配になって、俺は外から声をかけてみた。

「蒼生~、のぼせんなよ~」

少し間があって、 

「今出るから」

蒼生の声がした。

(あ、大丈夫)

それからすぐ、蒼生は風呂場から出てきた。Tシャツにスウェットというラフな姿で、居間のソファに腰かけた。

「蒼生、風呂長いな、…って、まだ髪濡れてんじゃん」

ポタポタっと、滴が落ち、Tシャツの肩が少し濡れている。

蒼生は雑に頭を拭く。

「大丈夫」

タオルを首にかけ、こちらを見る蒼生の、濡れた髪と、少し火照った肌が、色っぽく見えてしまい、

(う…)

俺は目をそらして、洗面所からドライヤーを取ってきた。

「…風邪引いたら大変だろ?」

「すぐ乾くって」

「だめ~」

風呂上がりの蒼生と、目を合わせなくて済むように、後ろに回った。

「大丈夫なのに…」

蒼生はまだぶつぶつ言っている。構わず俺は温風を当てた。

俺の髪は真っ黒の直毛で、どこまでも地味。蒼生の髪は、少し癖があって、色も少し明るい。イケメンはどこまでもイケメンだ。触れれば思った通り、ふわふわと柔らかかった。ドライヤーを「cool」に切り替え、手櫛で整えていると、急に声がかかった。

「なにしてんの、お前ら…」

「わ!」

いつの間にか、朱夏が立っていた。急に声を掛けられて、俺と蒼生は一緒に声を上げた。

「お、おかえり、朱夏」

声をかけると、朱夏は俺と蒼生を交互に見ながらちょっと笑っている。

「ただいま。…って玄関で一回言ったけどな」

朱夏は、リュックを降ろして蒼生の隣に置いた。

「ド、ドライヤーがさ…髪、乾かしてもらってて…」

蒼生が言うのに合わせて、俺もドライヤーを切る。コードを束ねながら、

「OK!終わり!」

「あ、ありがと…」

「へぇ…。なんか、まるで…」

朱夏は何か言いたそうにニコニコしていたけど、俺は強引に話を切った。

「朱夏、風呂は?!」

「ん~、練習場でシャワーしてきた」

確かに、顔も身なりもさっぱりしている。

「じゃあ、もう、夕飯にしよう?。蒼生、これ戻しといて」

「う、うん」

ドライヤーを手渡すと、蒼生がそそくさと洗面所に向かう。そのあとから朱夏も、

「手ぇ洗お」

と、洗面所に入っていった。

俺は、キッチンに行き、盛り付けを始めた。






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