⑱初恋  ~朱夏side~

隣の席の小鳥遊侑李は、ひょろっと青白くて、昼休みには本を読んでいる、いかにも「ガリ勉」って感じの男子だった。

(今日も何か読んでる。きっと、小難しいの読んでんだろうな…)

そんなことを思いながら、ちらりと目をやると、小鳥遊がふふっと笑ったのが見えた。 

ドキン。

(え?)

自分に驚く。

次の瞬間、同じクラスの男子生徒が振り回していた制服が、小鳥遊にぶつかった。

「あ!悪い!」

制服が当たった本が俺の方に飛ばされてきた。

焦った様子の男子生徒が、小鳥遊にむかって両手を合わせているが、小鳥遊は「大丈夫」と笑顔を向けている。

俺の方に飛んできた本は、ブックカバーがはずれ、表紙が見えている。それを拾って、俺は思わず声を上げた。

「あ…」

小鳥遊が近づいてきた。

「ありがと、新山くん」

カバーと、カバーが外れたままの本を小鳥遊に手渡しながら、

「…そのシリーズ、俺も読んでる」

つい、言ってしまった。すると、小鳥遊の顔が、ぱっと明るくなった。

「え?ほんと?!」

ドキン。

(う、また…?)

「異世界転生、好き?」

と、小鳥遊は聞いてきた。目がすごくキラキラしている。意外だった。でも、俺もなんか嬉しくなった。

「うん…うん!そのシリーズは特に。主人公のチートが、爽快でさ…!」

「分かる!」

それから俺たちは、よく話すようになった。


見た目通り、小鳥遊は、すごく勉強ができる。成績はいつもトップクラスだ。「運動は苦手」らしいけど、あのくらいなら普通だと思う。そこまで口数は多くないけど、好きなもののことはよくしゃべる。それを小鳥遊は「オタクの特性」と自虐めいている。時々辛辣。料理が趣味だってのには驚いた。

「ロッカー、ちゃんと整頓しなよ、朱夏」

そして意外と世話焼き。ちょっと「おかん」。


本を貸し借りするくらい、「侑李」「朱夏」と呼び合うくらい仲良くなった頃、家に誘ってみた。

今まで、家に人を誘ったことはない。家には人見知りの弟、蒼生がいたから。「蒼生を気疲れさせたくない」とか、「おどおどする蒼生にイラつく」とか、とにかく人を呼ぶのは面倒だったから。

でも、侑李のことは誘ってしまった。

そしたらなんと、蒼生は侑李にすぐ懐いた。

それだけじゃなかった。いつも下を向いていた蒼生が、自分の名前や挨拶さえ噛んでいた蒼生が、前を向くようになった。スムーズに話すようになった。更に中学に入学して、俺と同じバスケ部に入った。人見知りの蒼生が、自分から新しいことを始めるなんて、と、両親は驚いて喜んでいたけど、この頃になってやっと俺は「しまった」と思った。

侑李の何かが、蒼生を変えたんだ。それが何かは分からないけど…。

そして、蒼生の何かが、侑李のことも変えた。

侑李の蒼生を見る目には、いろんな感情がまぜこぜになっている。

たぶん、俺が侑李を見るときも、そんな目をしているんじゃないかと思う。

それってきっと…。


親父の転勤が決まって、お袋がついていく、ってなったとき、侑李に食事係をしてもらうことを両親に提案した。バイト代とかも交渉した。


元来世話焼きの親友は食事係を快諾してくれた。

蒼生には「予習」を促した。

兄貴として、親友として、二人には幸せになってもらいたい。俺の初恋はかなわなかったけれど…。















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