⑦友達

(もうそんな時間?!)

腕時計は六時半を過ぎていた。

俺は、慌てて立ち上がり、ひとつ深呼吸をする。

「…よし」

またひとつ、深呼吸。「友達」に戻る。

そっと顔だけ出して玄関の方を見ると、屈んだ姿勢の蒼生が見えた。靴ひもをほどいているらしい。

俺の気配を感じたのか、そのまま声をかけてきた。

「珍しいね?俺より早いの」

俺を朱夏だと思っているんだろう。少し気が紛れる。俺は部屋から出て、静かに近づいた。

「今日、晩飯、どうす…」

「できてるよ」

蒼生がハッとして顔を上げた。

「!え、あ…?え?!」

「おかえり、蒼生」

会うのは二ヶ月ぶりくらいだ。驚くのも無理ない。

「…!?え、え?侑李くん?」

口をパクパクさせている蒼生を見て、

(ドッキリ大成功)

と、心の中でプラカードを出す。バカなことを考えた。蒼生の驚きっぷりにも、自分の下らない考えにも笑ってしまう。やっと、いつも通りに戻ったような気がした。

「まだ聞いてない?」

「え?え!?なにを?!」

「朱夏、連絡しとくって言ってたけんだけどな」

「…!」

蒼生は学生服のポケットを探り、携帯電話を取り出した。指を動かし、画面を見ながら、また目を見開く。

「…あ…。…え、え?食事係?誰が?侑李くんが?」

「そ。今日からね」

「マジか…!」

蒼生は口許を押さえて、その場にうずくまった。

どうやら知らなかったらしい。そう言えば、今日、朱夏から声をかけられて、すぐ家に来たんだった。

(そっか、聞いてなかったか)

「…部活、お疲れ。お風呂沸かしといたよ。そのうちに朱夏も帰ってくるだろうから、そしたら、ご飯にしよ?」

「!う、うん…じゃ…」

蒼生は自室に荷物をおくと、

「風呂入ってくる…」と、バスルームに向かった。

俺の方はキッチンに戻り、テーブルのセッティングや料理の仕上げを始めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る