⑤新山家

朱夏の家に着いた時は、もうすぐ四時になるところだった。朱夏は、

「じゃ、俺、部活行くな。八時には帰る。蒼生も七時前には帰るんじゃないかな」

「分かった」

「あ、暇だったら俺の部屋入っていいぞ。小説とかマンガとかあるから」

「サンキュー」

「じゃ、いってくる」

「気をつけてな」

朱夏の自転車が最初の角を曲がるまで見送って、中に入る。買ってきたものを冷蔵庫にしまうと、俺は早速、夕飯の下拵えを始めた。


下拵えと大まかな調理を済ませ、ついでに掃除機をかけたり、風呂掃除をしたり。それでも俺は、時間を持て余していた。時計を見て、

(蒼生もまだ、だな)

「本でも読も…」

朱夏の部屋に向かう。

「お、あるある。増えてんな」

本棚にはたくさんのライトノベルが並んでいる。特に多いのが「異世界転生もの」。

俺たちが仲良くなったきっかけだ。

偶然落とした本を拾った朱夏が、

―俺もそのシリーズ読んでる

ーえ、ほんと?

ー主人公のチート、爽快だよな!

ーわかる!

意気投合した。それから、本を貸し借りするようになって、お互いの家に遊びに行くようになった。そして何度目かの訪問。そこで偶然会ったのが、蒼生。

ーこれ弟

 ほら、兄ちゃんの友達にあいさつ

ー…こ、こんにちは…

とても小さな声だった。あの頃、五年生だった蒼生は、背もまだ俺より小さくて、ずっともじもじしていた。前に、朱夏が

「少し人見知りなんだ」

って言っていたけど、予想していた以上だった。

…けど、なぜかその後、蒼生は俺にすぐ懐いた。それほど間を置かず「あおい」「ゆうりくん」って呼び合うようになった。朱夏が驚きながら、でも嬉しそうに「…弟のこと、よろしくな」って笑った。




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