④買い出し
授業が終わり、再び朱夏と落ち合って大学を出る。スーパーまでの道で、俺たちとすれ違う人が、時々足を止める。
(いや「朱夏とすれ違う人」か。そうだ、こいつ、イケメンだった…)
なんだか少し居心地が悪い。
朱夏は、スーパーに着くなり、
「一回やってみたかった」
と、ショッピングカートを押し始めた。周囲の視線など全く意に介していないみたいだ。
俺と並び、肩に手を置いて、顔を寄せてくる。
「何買う?侑李」
(ん?)
一瞬、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたけど…気のせいみたいだ。
(ああ、もう気にすんの、やめよ)
「…ん~、何作ろうかな?二人とも、好き嫌いはないよな?なんか、気を付けた方がいいこととかある?」
「…なんで?」
「なんでって…朱夏も蒼生もアスリートだろ?カロリーとかバランスとか…」
「いや、真面目か」
そんな会話を交わしながら、俺たちは店内を進む。食材をかごに入れていくと、朱夏が、
「なんか…少なくない?」
と、いぶかしげな顔をした。
「え?そう?」
「三人分にしてはさ…」
「え?三人?」
「え?」
お互いに、キョトンとする。
(二人、だよな?)
「え…朱夏、蒼生」
と親指、人差し指と順に折ると、
「侑李。ほら、三人」
と朱夏は、俺の親指、人差し指、中指を、自分の手で包み込む。
(ん?また?)
悲鳴が上がったような…。…うん、やっぱり気のせいか。
「俺も?」
「…え?一緒に食うよな?俺らの飯作って、そっから帰って、また、自分の飯作んの?」
俺は頷く。そのつもりだった。
「え~、一緒に食おうよ!…侑李は毎晩家で晩飯を食う!はい、決定」
(…相変わらずだな)
朱夏が気さくなのは、昔から変わらない。それが嬉しい。
「ありがと、じゃ、そうする」
朱夏の厚意に、笑顔で答える。
「うん。…あ、トマトは?」
「買う」
「どれ?」
「お尻の星がきれいなやつ」
「え?お尻?」
「俺のじゃない」
さりげなく人の尻を撫でる朱夏の手を軽く叩き、陳列されたトマトの中央部分を指差す。また悲鳴…いや、気のせい。空耳だ。
「ああ…」
「朱夏に任せる」
「責任重大~。……らい」
朱夏が何か呟いたような気がして、振り返る。
「何か言った?」
「ん?…あ、これは?」
また、空耳だったみたいだ。
「うん、いんじゃない?」
俺は朱夏の選んだトマトを受け取って、かごに入れた。
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