第14話 泣ける時は泣いとけ


 「先程から…どういうつもりですか」

 「まぁ、いわゆる同族嫌悪的な?」

 「何を…」



 まっ、いきなり言われても困るわな。




 「なぁ、エリシア…魔境はどうだ?」

 「……………。」

 「すまん、聞き方を変える………?」

 「…ッ」



 エリシアの表情が歪む。

 はっきり言うと、エリシア…と他の騎士共は魔境じゃ全く通用しねぇ。

 少なくとも爺さんレベルの奴が後、数人居るなら話は別だけどな。



 「俺が来なかったら、あの蛇も手に負えなかった筈だ。仮に倒せても何人かは確実に死んでる」

 「………わかっています」

 「ふぅ…俺が糞トカゲをぶっ飛ばしてから辛気臭ぇ顔しやがって」



 わかるんだよ。他人から向けられる敵意ってのは…エリシアのは敵意って程じゃねぇけど。

 それに近い感情を俺に向け始めてるのは感じてた。




 「俺に…何か言いたい事があるんじゃないのか?」

 「……感謝こそすれ。言いたい事なぞ…ある訳がありません…」

 「頑固な奴だな〜」




 よし、ここは1つ…地雷でも踏んでやろう。

 怒ればスラスラ言いたいことも出てくるっしょ。




 「リスクも実力も考えねぇで、のこのこ足を踏み入れるから皆死んだんだぞ。無駄死にだな!」




 よし、これで取り敢えず様子見を…………おひょ!?






 「…ッ…そ、それは…」




 

 現状報告、エリシア言葉が詰まり上手く話せないようだ。





 「…わかって…る…そんな事は…私だって…」




 現状報告、エリシア顔真っ赤で涙目になってます。






 「私だって……いっぱい…がんばったんだもん…ぅぅ…」






 現状報告、エリシア目からポロポロ涙を流し始めました。






 「…ぅ…うぅ……」




 

 最終報告、エリシア……ガチ泣き。








 



 やっちった。










 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 「ごめんて…」

 「ゔゔ……」

 「よしよし、言い過ぎたって。全く酷いやつも居るなぁ」



 ほら、頭を撫でてあげるから泣き止んで。

 じゃないと現在進行系で俺がクズ野郎になっちゃうからさ。



 「わ…私…」

 「うんうん」

 「がんばったけど…全然上手くいかなぐで………」

 「うんうん」

 「私のせいで……おぇっ…皆がっ…無駄死に…うえっ」

 「うんうん、俺が悪かったから吐くのは勘弁して…ちなみにエリシアって今何歳?」

 「ふぇ…?……17……さい」




 うむ、追い詰め過ぎたでな。

 




 「ごめんて」

 「いい…本当の事だから…私がもっと優秀なら皆は死ななかった。そもそも魔境に来なければ」

 「あ〜さっきと真逆なこと言っちゃうけどさぁ。覚悟はしてたんじゃないか?危険な場所だって皆知ってたんだろ」

 「……ぅぅ…でもぅぅ…」

 「よしよし、泣くなよ〜深呼吸しろ〜」



 かぁ~下手くそだな俺ぇ。

 怒らせて本音を言わせようとしたら別方向に上手く行き過ぎたな。



 「頑張ってるぞ、お前は充分…頑張ってる」

 「……………。」



 う~ん…どうするかな。

 よし、ここは人生の先輩がアドバイスを送ろう。



 「俺もなエリシアと似たような経験したんだぜ?」

 「……そうなの?」



 うしっ!良い感じに興味を引けたぞ〜。




 「俺だってな昔から強かった訳じゃないんだぞ?」

 「…想像できない」

 「まぁ聞けって。その時、調子に乗っててさ…仲間とある魔物を倒しに行ったんだ」

 「……うん」




 あん時は大変だったなぁ〜まさか邪神の眷属だとは思わなかったし。




 



 「俺以外、呆気なく死んじまった」

 「………えっ」

 「最初は何が起こったか分からなかったよ…目の前で昨日まで一緒に馬鹿やってた奴等が一瞬でただの肉塊になっちまった」

 「その魔物が強かったってこと…?」

 「簡単に言えばそうだな!まっ、1番の原因は俺が撤退を拒否したせいだけどな」

 「なんで…逃げなかったの?」



 え?そこ聞いちゃうか〜あっはっは。



 「勝てると思ってたから」

 「そ、それだけ…?」

 「おう!ちょっと強くなって調子に乗って…僅かな勝機に賭けた。笑えるよな~…下らねぇプライド守る為に仲間が死ぬかも知れないって可能性を考えて無かった」




 もちろん、結果は悲惨なんて言葉で片付けられるもんじゃ無かったな。




 「俺だけ逃げて見殺しにした」

 「…………。」

 「1番クソだと思ったのは助かった時に…俺は安心したんだ…ほんとっ、心からな」




 どうだ?死んだ方がいいだろ、こんな奴。



 「ど…どうやって乗り越えたんですか?」

 「ん?乗り越えてないぞ」

 「い、いや…でも」

 「ふとした時に思い出すんだよ。仲間の顔とか…死ぬ間際の表情とか……寝ても夢に出てくるんだ」



 今は大分ましになったから笑ってられるけどね。




 「暫く飯なんて食べられなかったし…数ヶ月も部屋の中で泣いてたよ。泣いて…泣き疲れて…寝て…また泣いて、そうでもしなきゃ狂いそうだったからな!」

 



 エリシアだって似たような感じだろ今わ。

 その目の下の隈、あん時の俺そっくりなんだよね。




 「まっ、そっから色々あって現在に至ると」

 「その色々が凄く気になる…」

 「機会があれば話してやるよ、それと…俺と違ってエリシアは偉いぞ~」



 

 頭撫でちゃる、よしよし。



 「え?え?」

 「ちゃんと考えて、考えて…苦しんで…死んだ奴等の想いを背負おうと必死に足掻いてる。俺なんて…全部忘れようとしたのにな…凄ぇよお前は」


 

 同族嫌悪なんて言って悪かったな。

 エリシア、お前は立派にやってるよ…だから。




 「泣くならちゃんと泣いてやれ、あと無駄死にじゃねえ…少なくとも覚悟してお前に付いて来た奴等だ、きっと後悔はあってもエリシアを恨んではいない筈だぜ」



 おっ?……はははっ。








 よしよし…泣け、泣き止むまで……。








 隣に居てやるからよ。






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