第5話 英雄の片鱗


 「それじゃあ遊ぶぞ~!」


 「「「「「「も~!」」」」」」



 あっはっは!ちょっと呼び過ぎたな。

 まっ、人手は多い方が早いし結果オーライって事で。




 「よ〜し、魔力食った奴から遊べよ」

 「も!」




 精霊は魔力で出来た生物だ、厳密には少し違うけど別に学者でもない俺からすればどうでも良い。

 世界中に精霊は居るが普段は空気中の魔力とか龍脈から漏れ出た魔力を勝手に補給して存在してる。




 「お前等もたまには味変したいだろ?」

 「も!」



 可愛いやっちゃでホンマに。




























 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 





 「えー!それでは皆さん今日も1日沢山遊びましょう!」



 「「「「「「も!」」」」」」」


 


 地の精霊達には、そこらで生えまくってる木をどかして貰う。

 存在そのものが魔法みたいな奴等だから地属性の魔法をわざわざ使わなくてすむ。



 「「「「も~!」」」」



 何匹かが木に集まり声を上げると、木が意思を持ったかのように根を動かし移動する。

 めっちゃ楽〜。



 「適当に伐採するのも良いけど…やっぱプロだなぁ」



 そう時間もかからず指定した木が移動し、ある程度のスペースが出来た。

 ふむ…良い仕事ぶりだな。




 「うむ…では」




行くぞぉぉぉぁぉァァァァBBQだぁぁぁぁぁぁ!!!













 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 「ぶもぉぉぉぉぉぉぉぁ!!!?」

 「待てぇやぁァァァァ肉ぅぅぅぅ!!!!」





 現在、私は極上の肉を求めて大きな豚の魔物を追い掛けています。





 「ウィル・ロンド風と踊る逃げんなボケカスコラァァァァァァ!」




 足場の悪い森の中でも滑る様に移動できる。




 「往生せぇ!」




 豚の魔物に追い付き並走する、横並びになった瞬間…魔物の大きな横っ腹に掌底を喰らわせる。




 ドウッ!




 「ぶごぉっ…!??」

 「肉ゲェットォォォォォォォ!」







 


























 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







 ジュ~ジュ~





 「うむ、良きかな……」




 枝にぶつ切りにした魔物の肉を刺し焚火で遠目からじっくりと火を通す。



 「も!」

 「駄目だぞ〜まだだ、まだだぞ〜」

 「も〜…」



 そろそろ日も落ちそうだな……。




 「……俺さ、夢だったんだよなこうして明日を考えずにダラダラ過ごすの」

 「も…?」

 「はははっ…分かんないよな。いや、良いんだ…思い付いた事を…ただやりたい事をやれる。それだけで嬉しんだよ」




 俺だって分かってるさ転生して早々BBQだぜ?

 馬鹿だよ馬鹿、でもなぁ…過去の転生した俺はこうやって馬鹿な事を出来なかった。



 失敗しないように…調べて、準備して…それでも不安に押し潰される日々を送ってた俺からすれば…こんなにも無計画な事をやれる余裕がある。

 それが、どれ程素晴らしいことか……。



 「ほら、焼けたぞ」

 「も~♪」

 「皆にも分けろよ沢山あるんだから」

 「も!」



 クパァ…ごちゅ、ごちゅ…ぐぢゅるる!



 「…………食べ方キモいな、頭かぱって開いたぞ……」

 「も?」

 「なんでもないよ、食え食え」



 精霊のくせに物理的な食事も採れるだもんな…まっ、こいつ等にとっちゃ遊びなんだろうけど…。

 さて、俺もそろそろ頂くかな…。



 「塩もなんにも掛けてないけど…美味い、もう見ただけで美味い」



 草と土食うのと比べれば罰が当たるくらいのご馳走だ。



 「んじゃ、頂きまぁ〜」












 ガサガサッ…






 

 え、ちょっと待って何か魔力の反応あるんですけど?



 木々の間から気配を感じる…つーか走ってこっちに向かって来てるな。

 えー…勘弁してよ、まだ一口も食べてないんだけど。

 しかもこの反応……。




 「




 一応、上から見た感じ人里は無かった筈だけどな。

 魔力の感じ的にエルフじゃねぇし…はぁ…嫌な予感。




 ガシャァァァ!



 「ぐっ…!?…はぁ…はぁ……はぁ……」



 飛び込んできたのは騎士っぽい格好をした女。

 随分、疲弊してるな……傷も酷そうだ。

 何かに怯えてるのか呑気にBBQしてる俺には気付いてないっぽい。



 よし、気付かずこのままどっか行け。



 「は、早く伝えないと…早く…………………え?」



 まっ!普通に気付くよね!

 仕方ない取り敢えず挨拶だけしとくか。



 「こんばんはー」

 「え?…あっ、こんばんは……って、何故このような所に人が…それもえっ?何して…」

 「ちょっとご褒美を堪能してるんだよ」 

 「は、はぁ…って!?は、早く避難をっ奴が来る!!?」



 な、なにぃ!?奴が!?



 って言ってみたりね、分かってる魔力が一直線に向かって来てる。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!




 地面が揺れてる…凄いな木々を関係なく薙ぎ倒してるっぽいぞ。





 「ブモォォォォォォォォォォォォオ!!!!!」




 現れたのは巨大な猪、赤い体毛からメラメラと魔力を滲ませながら突進している。

 ん?あの…姿、あーこの肉の同族か…俺が狩ったのはあれの幼体って訳ね。



 流石に成体はデケェな高さだけで三メートルはある。



 「わ、私が囮になりますっ…うっ!?」

 「その傷じゃ無理だろ?」

 「ですがっ…」

 「良いから、これでも食ってろ」



 串焼きを渡して俺は名も知らぬ彼女の前に立つ。




 なぁに、慣れっこだよ。





 「これでも英雄って呼ばれてたんだぜ?」





 弱き者、傷付き涙を流す者の前に…俺は幾度となく立っていた。






 「ブモォォォォォォォォォォオオオオ!!!」

 「食事中だ静かにしろ ウィル・ザール風刃波



 空間をなぞる様に手刀を振ると馬鹿正直に突進してきた魔物を不可視の刃が過ぎ去る。


 

 ザァシュッ!!!



  「ブモォォォォ 

         ぉぉおぉ…?」




 真っ二つに両断された魔物は勢いをそのままに俺と彼女の両脇に亡骸を晒す。




 

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