第17話 イーモウット教会の戦い

 数時間後。


 ──イーモウット教会。


 村人から借りた服に着替え、私とガーラは問題のイーモウット教会へと来ていた。


「お姉ちゃん。その服似合うね〜」


「ガーラもよく似合っているぞ」


 フルヘルムを外したガーラが大きな瞳で覗き込んで来る。普通の服を着て、精神も退行しているガーラはどこからどう見ても普通の少女そのものだ。とても剣聖のロリババァには見えない。


「本当〜? 嬉しいぃ〜!」


 ガーラが飛び付いて来る。


 本当に妹のようだな……いや、何を気を抜いている。任務に集中しろアレックス。


 自分に言い聞かせ武器を確認する。スカートの中にダガーが2本。いつもと異なる獲物だが、身を守るには十分だ。


「よし。行くぞガーラ」


「うん!」


 教会の扉を叩くとすぐに妖艶なシスターが顔を覗かせた。


「おや、姉妹で礼拝ですか?」


 コイツがイモータル・シスター……見れば一発で分かる。このように胸元を大きく開けた卑猥なシスターなどいるものか。


「親が今日は仕事なんだ。子供だけでも構わないか?」


「かまいませんわぁ♪ どうぞお入り下さい♪」


 この女……隠す気がなさすぎる。シスターが語尾に「♪」など付けないだろう。他の者はなぜこの女に気付かなかったのだろうか?


 いや、何かバレない擬態能力を隠しているのかもしれない。


 ……流石不死のイモータルだ。この後に何かを仕掛けて来るつもりだろう。


「お姉ちゃん〜早くお家に帰りたいよ〜」


「ほら、これが終わったら家に帰るから。大人しくしていなさい」


「う〜」


 打ち合わせ通りにガーラと姉妹らしい演技をする。イモータル・シスターは特に疑う様子もなく教会の中へと入れてくれた。



◇◇◇


 我らが女神、ディーテの石像の元で祈りを捧げる。



 一応、願いを述べておくか……。



 美と願いの女神、ディーテよ。私が必ず魔女を討ってみせます。どうか私の行く末をお導き下さい……。



 これで、よし。



 帰る素振りを見せればイモータル・シスターが動き始めるはずだ。


「帰ろうガーラ」


 ガーラと手を繋ぎ女神像に背を向ける。教会から出ようとすると、妖艶なシスターは扉の前に立ちはだかった。


「そんな所にいたら帰れないのだが?」


「ふふっ。お嬢さん達。少し女神についてお勉強をしていかない?」


「神?」


「こちらへどうぞ♪ 地下に様々な文献があるの♪ 特別に見せてあげるわ」


 笑みを浮かべるシスター。ついて行けば子供達の捕まっている場所が分かるか。


「どうするのお姉ちゃん?」


 不安気な顔でガーラが見上げて来る。演技だと分かってはいるが、その顔を見ると守りたいと思ってしまう。


 捕まった子供達もこのような顔をしているのかもな……。


「ガーラ。せっかくシスターが貴重な資料を見せてくれると言うんだ。見せて貰おう」


「ではこちらへ」


 明らかにテンションが上がるシスターについて行く。シスターが奥の扉を開くと、地下へと繋がる階段があった。


「女神ディーテはこの世界だけでなく、様々な世界へと出向くと言われています」


 階段を降りながら、シスターが女神の話をする。それは、私が子供の頃に聞いた事がある内容だった。


「聞いたことがある。願う者に呼応し、その者の元へ現れるのだったな」


「そう。しかし近年では女神の存在自体が嘘なのではないかと言われているの」


「嘘?」


 シスターに連れられ、ある部屋へと入る。そこは薄暗い地下牢のような部屋だった。


「えぇ。だって……誰が願ってもディーテは現れないのですもの。ここの達は皆願っているはずよ『女神様助けて下さい』ってねぇ」


 扉の前でピタリと止まるシスター。彼女は扉をバタリと閉じると、指を鳴らした。



 すると。



 部屋の中のロウソクに一斉に火が灯っていく。



「助けてぇ……」

「帰りたいよぉ」

「誰かぁ……」

「おがあ"さぁん……」



 部屋の奥では、捕まった幼女達の姿があった。


「なにこれぇ?」


 ガーラの演技が嘘くさくなる。予想通り……というか、イモータル・シスターの手口に捻りがなさすぎてある意味困惑しているのかもしれない。


「あの子達は私の達……貴方達も私の妹になりなさい?」


 笑顔のままイモータル・シスターが覗き込んで来る。しかし、その笑顔には強烈なまでの圧力が籠っている。


「断ったら?」



「もちろん……死よ」



 その言葉で確信する。この女は魔女ヨージョカと同じ……倒さなくてはならない存在だと。



 スパンスパァン!!



 スカートの中からダガーを2本取り出し、シスターに斬撃を放つ。


「かはっ!? なんなのアナタ!?」


 シスターの瞳孔が鋭くなる。飛び退いた彼女に向かいダガーを突き付ける。



「貴様の正体は知っているんだよ。真の姿を表せイモータル」


「な、なぜそれを……? 完璧にシスターに変装していたというのに……っ!?」


 隠しているつもりだったのか?


「その剣技……その眼光……貴方、ただの幼女じゃない……そうか……アナタ、ロリババァか……」



 ブツブツと独り言を呟くシスター。彼女はキッと私を睨み付けると、一気に姿を変えた。



 その肌が紫になっていく。眼球は黒く、目は赤く。明らかに通常の人間では無いという姿へと変態していく。



 バリバリと修道服が破れ、肌の露出が増えた痴女のような姿へ。



 明らかに通常の人間では、無い。



「ロリババァねぇ……そんな妹も良いかもしれないわねぇ!!」


 イモータル・シスターの手。その爪先が伸びる。



「アナタも私の妹にしてあげるわあああああ!!」



 シャキンッ!!


 

 イモータル・シスターが振り下ろした手を躱わした瞬間、石畳の床に亀裂が入る。



「ガーラは子供達を!! 私がイモータルを引き受ける」


「うん! 分かったよお姉ちゃん!!」



「お姉ちゃんお姉ちゃん……ってぇ!! そんなに見せびらかしたいのアンタはぁ!!」


 シャキンシャキン!!


 突如怒り出したイモータルがその爪で連続斬撃を放つ。それを避け、両手のダガーで反撃する。



 スパンスパァンッ!!



 避けようとしたイモータルの頬に一筋の血が流れる。



「……くっ!? やるわね……っ!? だけど私には効かないわぁ!!」



 瞬時に傷が再生するイモータル。



「ふふっ……妹になるまで、返さないわよ」



 イモータル・シスターは、ニヤリと顔を歪ませた。




―――――――――――

 あとがき。


 アレックス達はどのように不死属性の敵を倒すのか?


 次回、ご期待下さい。




 モンスター図鑑


 イモータル・シスター


 人型の不死の魔物。人間のシスターに擬態し幼女を攫い、己の妹にする。妹にされた者は1年という年月をかけて新たなイモータル・シスターに変態させられる。妹になることを断れば死。

 イモータル・シスター自体が妹気質。


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