第16話 イモータル・シスターの怪

 ゼフィーが元に戻ってから数日。


 そろそろ出発しようと話し合っていたところに屋敷の主人トット・イーネ伯爵が訪ねて来た。


「あら。トット様。どうされたのですか?」


「実は……ユリス姫とロリヴァーナイツの皆様にどうしてもお願いしたいことがあるのです」


「なんでしょう?」



「それが……」



  ……。



 トット伯爵の話によると、この村より少し離れた教会で、幼い子供達が行方不明になる事件が起きているそうだ。


 しかし、教会の神父やシスターに聞いても誰も子供達を見ていないという。


「この村は私が管理を任されている地……子供達は我々に取って尊い宝のようなもの。それが消えてしまったと聞いて妻のソレイも心配しておりまして……」


「そうですか……それはお辛いでしょう」


 トット伯爵の姿はとても落ち込んでいるように見えた。


 そういえば、この村を回った時に見たトット・イーネ伯爵の姿……彼はは村人達に相当慕われていたな。そんなトット伯爵であれば、子供達のことも大切に思うだろうな……。


「アレックス? そのような子供をさらうモンスターに心当たりはありますか?」


 姫が真っ直ぐ私を見る。


「子供……幼女を好むという点ではロリゴブリンが可能性が高いでしょう」


「この前ガーラが戦った魔物だよねぇ〜。確かにガーラを見た瞬間アイツら飛びかかって来たもんね〜」


 ガーラがイスに座り、足をパタパタと動かした。


「あぁ。だが、ロリゴブリンならばすぐに分かる。ヤツらは数が多いですから」


「それならば、別の魔物の方が可能性が高い……ですか」


 魔物について話合っていると、トット伯爵がオズオズと口を開く。


「あの、これで分かるかは分かりませんが、1人、村に戻って来た子供がいるのです。その子供が『イモータル・シスター』という言葉を聞いたと言うのです」



 イモータル?



「イモータル種……ヤツならば、幼女を攫っても不思議では無い。しかし、そうか……」


 これは、厄介な魔物だな。


「知ってるの? アレックス?」


 壁に寄りかかっていたニアがジトリと視線を向ける。その視線の鋭さは、既に彼女が戦闘モードに入っていることを告げているようだった。


「ニアが知らないのも無理はない。地下深くに住む人型魔物「イモータル」……地上には滅多に出て来ないだろうからな」


「人型? 私達と同じ姿をしているということ?」


「そうです姫。イモータル種は妖艶な女性のような姿をしている。奴らは幼女を攫い、自らの妹とする……そして、最後にはヤツらの仲間へと変態させるのだ」


「へ、変態ですと!? なら攫われた子ども達は……!?」


「落ち着いてくれトット伯爵。奴らが攫った人の変態にかける時間は約1年。今助ければ間に合うはずだ」


「そうですか……なら、余計に早く助けなければ」


 トット伯爵はその手を握りしめる。


「だな。ガキを攫って変態させるなんて許せねぇぜ」


 ゼフィーがその拳をバシンと叩く。


「だがゼフィー。奴との戦闘は一筋縄でいかない。厄介な能力を持っているんだ」


「厄介な能力ってなんだよ?」


「イモータル種は……不死属性を持っている」


「不死属性!? そんなの聞いたこともねぇぞ!?」


「……どうやって倒すの?」


 ゼフィーもニアも全員が驚きの声を上げる。


「以前、同種族と戦った時は地下洞窟だったからな。洞窟の壁面を崩壊させイモータルを洞窟内へ閉じ込めた」


「じゃあ〜今回も同じようにすればいいんだね」


 能天気な声を上げるガーラ。彼女は今回の状況の難しさを理解していないようだ。


「ガーラ? 教会を破壊しては囚われている子供達も巻き添えになりますよ?」


「う……難しい〜」


 ユリス姫の言葉にフルヘルムのガーラはフルフルと頭を振った。


「子供達が見つからない……ということは教会に地下室のようなものでもあるのだろう。行って確かめるのが手っ取り早い」


「誰が行くの〜?」


 ……1番危険な役回りは私がするべきだろう。今の私ならイモータルの標的になれるだろうしな。


 だが、もう1人相方が欲しい所だな。


 ゼフィー、ニア、ガーラの顔を交互に見ていく。



 ……。



 やはり、1人しか適任者はいないか。


「よし。潜入は私とガーラで行う。ゼフィーとニアは先頭が始まったら合流してくれ」


「え〜〜〜!? ガーラが行くの!?」


 驚くガーラ。そんな彼女を見て笑みを浮かべた。


「そうだ。私とガーラは姉妹……そういうことならば怪しまれることもないだろう」


「う〜分かったよぉ……」



「後はどのようにイモータルを無力化するか……ですね」


 ユリス姫が考えるような仕草をする。


「「「「う〜〜ん」」」」


 全員でうんうん唸る。


 どうしたものか……不死の敵を倒す方法……。


「あ!!」


 突然。ゼフィーが大声を上げた。


「どうしたゼフィー?」


「分かったぜ……イモータルの倒し方がよ!!」


 ゼフィーは自身ありげに「あること」を言い放った。




―――――――――――

 あとがき。


 次回、アレックスとガーラは教会へと侵入します。果たして彼女達を待ち受けるものとは……?



人物時点


トットイーネ伯爵


のどかな村「イーネ村」の領主。人柄も良く差別をしない。領民やコレスコ王からの信頼も厚い。時折、仲睦まじくしている人々を見ては「尊いね」と呟くことがある。妻はソレイ・イーネ伯爵夫人。

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