閑話 ニア、武器屋へ連れて行く
ゼフィーが元に戻ってから1日。
私達が宿泊している屋敷の主人トット・イーネ伯爵に勧められ、私達はもう少しこの村へ滞在することになった。
屋敷の庭で鍛錬をしていると、ニアが声をかけて来た。
「……ねぇアレックス? 今からボクの装備を整えに行くんだけど、一緒にいかない?」
装備?
そうか。ニアは弓使い……矢の補充は死活問題か。
「いいぞ。私も武器屋という物に興味がある」
「……え? アレックスは店に行ったことが無いの?」
「私が行ったことがあるのは山にある鍛冶屋くらいだな。そこでいつも武器を製作して貰っていた」
「そうなんだね。じゃ、じゃあボクが連れてってあげるよ」
珍しくニアが微笑む。青い髪が肩にかかって揺れる。なんだかこんなニアを見るのは初めてかもしれない。
「それじゃあ行こう! アレックス!」
ニアは、私の手を取って屋敷の外へと駆け出した。
◇◇◇
「おぉ! なんだここは!?」
店に入ると目に入る甲冑や武器類。私が見たことのない東方の剣まで揃えられている。見ているだけで胸が高鳴って来るな。
ズラッと並ぶ武器を見るだけで想像してしまう。一体どれほどの職人がここまでの武器を作ったのだろう?
「この武器屋でこれは作っているのか?」
「ううん。各地の鍛治職人から武器を仕入れる商人がいるんだ。それが馴染みの武器屋に商品を
ニアが店の中を物色しながら答えてくれる。
「そうなのか。それで……」
これほどまでに様々な種類が集まるのか。
「なぁニア。ここの装備品は自由に手に取っても良いのか?」
返事が無い。
「ニア?」
振り返ると、ニアが武器屋の店主と話していた。
「ここらの製法だとこの辺りが良いと思いますがね。どうですかい?」
店主が矢をテーブルの上に並べる。その内の一本を手に取るニア。
「……ここの矢。かなり質が良い」
ニアが片目を閉じ、矢を眺める。彼女の眼は真剣そのものだった。
「じゃ、アッシは奥にいやすんで。決まったら声かけて下さいや」
「……盗みの心配とかしなくていいの?」
「ここはコレスコ王様の領地ですよ? そんなことするような野蛮な奴はいやせんぜ。それともお嬢さんが盗みを働くつもりとか……?」
「……そんなことしない」
「冗談でやすよ。気を悪くされたらすみやせん」
そう言うと、店主は店の奥へと入って言った。
ふぅん。コレスコ王というのは随分は名君のようだな。そこまで治安を保っているとは。
……っと私もロングソードがみたいんだった。
店を見渡すが、武器類が多すぎてどこがロングソードの置き場なのか分からない。これは勝手に漁って良いのだろうか?
「ニア、私は剣をみたいのだが……」
ニアが真剣な表情で矢を見ては、机の上に並べていく。選別しているのだろうか?
「ニア?」
「待って。もう少し……」
……完全に自分の世界に入っているな。
ううん。これは邪魔しない方が良いかな。
脚用装備の前に設置されているイスに座る。
……静かだ。
窓の向こうから聞こえる村人達の生活音。店の奥から聞こえる社業の音。なんだか……この静かな空間が真剣なニアの横顔を引き立てているように感じた。
……。
ふふ。こういうのも、悪くない。
私はずっと静けさとは孤独のことだと思っていたからな。1人でずっといたから……。
こうやって、誰かと静けさに身を置くのも悪くない。
そんなことを考えながらニアの様子を眺めていると、急に彼女がハッとした様子でこちらを見た。
「ご、ごめんアレックス! ボクが誘ったのについ夢中になっちゃって……っ!?」
「いや、構わないよ」
ニアが私の顔を見て惚けたような顔をする。
「ん? 私の顔に何かついているか?」
「う、ううん……その、アレックスが、笑ってたから……」
笑う?
店の窓を見ると鎧を来た少女……幼女となった私が、微笑みを浮かべているのが写っていた。
そうか、私はこの空間が心地良いと思っていたのだな。自分でも気が付かなかった。
「アレックスのその顔……好きだな……優しそうで……」
ニアが俯き、チラチラとこちらを見る。その眼は、いつものような鋭さは感じられない。
私の胸の奥に暖かいような気持ちが広がる。
「ありがとう。嬉しいよ」
「う、うん……け、剣を見たかったんだよね? ボクも一緒に探すよ」
赤い顔で私の手を取るニア。
私も、彼女のその顔が好きだなと思った。
―――――――――――
あとがき。
ニア回でした! 次回より本編に戻ります。
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