ママよ永遠に……編

第10話 ママァ(聖母)護衛任務

 ロリス王の前へひざまずく。王は、慈愛の籠った顔で私を見た。


「其方は今日も可憐だな」


 可憐……か。確か可憐とは「守ってやりたくなる気持ちにさせる者」という言葉だったな。


 それほどまでに私は弱々しく見えるだろうか?


 右に立っていた兵士の盾をジッと見つめる。鏡のように磨かれた盾。そこに映った幼い少女は、金色の髪を耳にかけ、青い瞳で私を見つめ返した。


 クッ。この弱々しい姿では無理もないか。


 しかし、さすが賢王だ。私がおごらぬよういさめて下さるとは。


(おい。アレックス様俺のことを見つめてるんじゃねぇか? も、もしかして気があるのかな?)

(は? そんな訳無いだろ。アレックス様はゼフィー様とできてんだよ。手を繋いでいる所を見たぞ)

(いや、いやいやいや! アレックス様はニア様を愛しているんだ! 俺は見た! アレックス様がニア様を可愛いと言っている姿を!)

(どっちでもいいぜ〜俺も間に挟まりて〜)


 なんだ? 皆何かをささやいているが、なんと言っているかイマイチ聞こえない。


  ……。


 次の任務はそれほどまでに危険な任務ということか。ロリヴァーナイツの活躍を見せる絶好の機会だな。


「コホン!」


 王が大きく咳払いする。すると、ザワザワとした声が止む。


「アレックスよ。今日呼んだのは護衛についてだ」


「護衛……ですか」


「あぁ。まずは我が娘を紹介しよう。来なさい」


 王の呼びかけに応じるように、淡いピンク色のドレスを着た女性が謁見の間へと入って来る。彼女は、王の隣へと腰を下ろした。


 長い銀髪に切れ長の目。その姿全てが、彼女が高貴な女性ということを告げていた。


「我が娘、ユリスだ」


「お初にお目にかかりますわ。騎士アレックス」


(ユリス様だ! ママァ聖母だ!)

(今日もお美しいな。ママァ聖母は……)

(ユリス・キーダ姫……包み込まれるような存在感……流石ですね)

(ほっほっほ。目の保養じゃぞこれは)


 ザワザワと騒ぐ兵士達は、ユリス姫が咳払いをすると再び静かになった。


 私も聞いたことがある。



 ユリス・キーダ姫。



 彼女は先の大戦を止める為、敵国であるテイエス帝国のヴィエル皇帝との婚約を申し出た。大戦の中心となっていたキーダ王国とテイエス帝国との婚姻……これは数十年に及ぶ大戦の幕引きとして、各国へ受け入れられた。



 民達は彼女の勇気と慈愛の心を讃え、我らの古き言葉でママァ聖母と呼んだと。


「彼女はこれからテイエス帝国に入国する予定だ。しかし……我が娘の命を狙う輩は多い。私的な内容にロリヴァーナイツの力を使うのは心苦しいが……どうか頼む」


 ロリス王が頭を下げる。


「王よ。我らロリヴァーナイツは主である王と共にございます。必ずや私達が姫を無事にお送り致します」


「うむ……頼むぞ。我が騎士、アレックスよ」




◇◇◇


「……ということだ。現状動けるロリヴァーナイツは私、ゼフィー、ニア、ガーラの4名。この4名で姫を護衛する」


 ロリヴァーナイツの会議室「円卓の間」では、私を含めて4人の騎士が円卓に着いていた。


「他の兵士達は連れて行かないのか?」


 大斧の手入れをしていたゼフィーが不思議そうな顔でこちらを見た。


「ユリス姫の要望だ。大戦の終結を快く思わない勢力に魔女の存在……テイエス王国への入国は極秘に行いたいと」


「妥当だね。ボクが姫でもそうするよ」


「ニアがお姫様? 誰と結婚するの〜?」


「が、ガーラ……今はそういう話じゃなくて……」


 なぜか顔を真っ赤にしたニアがチラチラと私を見た。


「おいニア。俺様を差し置いて抜け駆けは許さねぇからな?」


「う、うるさいゼフィー! 分かってるよ!」


 2人は一体何を喧嘩しているんだ……?


 なぜかお互いムキになって喧嘩するゼフィーとニア。その様子を眺めていたら、ガーラが私の膝の上に乗って来た。


「んしょんしょ」


「ガーラ? 何をやっているんだ?」


「お姉ちゃんの膝の上に座りたかったんだもん♪」


 上機嫌なガーラ。彼女がフルヘルムを取る。茶色い髪に大きな瞳の少女が私の胸に顔をグリグリと押し付けた。


「えへへ〜。お姉ちゃんとお姫様はガーラが守ってあげるからね♪」


「おぃガーラ!」

「何やってるの?」


「え〜? だってゼフィーもニアも喧嘩しててお姉ちゃん守れなさそうだしぃ」


「お前だってこの前ロリゴブリン相手にピーピー泣いてたじゃねぇか!」


「もう大丈夫だもん! お姉ちゃんもいるし! ね〜?」



「……ガーラ。アレックスの膝から降りて」


 ニアがガーラをジトリと睨み付ける。


 「ひっ!?」


 ニアの視線を浴びて怖くなったのか、ガーラがフルヘルムをカプリと被りフルフルと震え出す。


「ニアが怖いよ〜!」


 震えながら私の胸にヒシッと抱きつくガーラ。あまりに可哀想なので抱きしめてその背中を優しく撫でる。


「よしよし」


「ぐっ!? アレックスに抱きしめられるだと!?」

「……ボクもやって貰ったことないのに!?」


 なぜか2人は悔しそうな顔をした。



 ……3人の腕前は頼もしいが、大丈夫なのか?



 なんだか少しだけ不安になった。



―――――――――――

 あとがき。


 次回、ユリス・キーダ姫と共に国を出発するアレックス達。しかし、ユリス姫がアレックスに……?

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