閑話 ゼフィー、食事に誘う
オサナイ村の一件から数日後。
私達はキーダ王国へと戻っていた。
ロリス王への報告は意外に時間がかかった。まさか王が「のじゃロリス」をあれほどまでに気にされているとは……確かにそう言われると「ロリス」王の名が入っているな。全く気づかなかった……。
そんなことを考えながら王宮を出ると、入り口に見慣れた姿の者が立っていた。
赤い髪に重装甲の鎧、鉄塊のような斧を背負った幼女……ゼフィーが。
「どうしたゼフィー? 君も王宮に用か?」
「い、いやちげーよ。アレックスに用があってよ」
何だかそわそわするゼフィー。不思議に思っていると。彼女は頬を赤く染めながら私を見た」
「なぁアレックス。昼飯でも食いに行かねぇか?」
◇◇◇
ゼフィーに連れられて、王国の市場へとやって来た。昼前の市場は片付け始めている屋台もあるものの、未だ活気に溢れていた。
「ルオリー亭のポップキャンディ! 王国1番の甘さだよ!」
「タフルリンゴ! タフルリンゴ! 今なら安いよ〜」
屋台から声が聞こえる。人も物凄い量だ。人のいない場所で戦いに明け暮れていた私には中々に辛い場所だな。
「ん? そういえばゼフィーは?」
前方を見てみるが、行き交う人ばかりでゼフィーの姿が見えない。
「はぐれてしまったのか」
あの巨大な斧ならすぐ分かる気もするが……。
立ち止まって周囲を見回していると、男がぶつかって来た。
「おい! 何立ち止まってやがる!!」
「すまない。知り合いとはぐれてしまってな」
「知るか! お〜痛てぇ! 今ので骨折れたかもしれないぜ〜」
急にニヤニヤと笑い出す男。
なんだこの覇気の無さは? まともな戦闘経験は無いように見える。よくこれで相手を
「お嬢ちゃん。騎士様の真似事はいいが、まずはマナーから学ばねぇとなぁ?」
マナー? もしかしてこの男……マナー講師なのか? だとすると私のマナーがなっていないから怒っていたのかもしれない。
……。
この国での作法を学ぶ良い機会かもな。
「マナーか。なら教えてくれないか? 私はこの国に来たばかりなのでな。あまり詳しくないんだ」
「は、え?」
急に面食らったような顔をする男。なんだろう? 私はおかしなことを言ったのか?
クソッ。マナーを学ぼうとした矢先に失態を犯すとは……ううん……だが聞かないと、分からないしな。ここは恥を忍んで聞いてみるか。
「人にぶつかられて威圧された時、どのようなマナーを守ればいいのか分からないんだ。私に教えてくれないか?」
「お嬢ちゃん……俺のこと馬鹿にしてるのか?」
「いや? 馬鹿になどしていないが? 真剣に君の言うマナーという物を学びたいと思っただけだ」
男が怒ったような顔をする。なんだ? 私は怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。
……。
「まぁいいや。ならよぉ。金だよ金。俺はお嬢ちゃんにぶつかって怪我をした。なら金くらい払うのがマナーだよなぁ?」
「金?」
なぜこの男がぶつかって来たのに私がぶつかったことになっているのだ?
あ、そうか! 分かったぞ!
「なんだ! 君は金が欲しくてぶつかって来たのだな! そうなら初めからそう言ってくれれば良かったのに!」
「は?」
「金が欲しい時はぶつかる! それがこの国のマナーなのか!」
「やっぱ俺のこと馬鹿にしてやがるな!!」
男が顔を真っ赤にして胸ぐらを掴んで来る。
「ん? 胸ぐらを掴むのもマナーなのか?」
「てめぇ!!」
男がその腕を振り上げる。
どういう意味がある動きなのか観察していると、男の後頭部に何かが当たった。
「痛ぇ!?」
それは鉄塊のような巨大な斧で……男の後ろにゼフィーが立っていた。
「おぉ〜そんな所にボケっと立ってっからよぉ〜ぶつかっちまったぜ」
「何しやがる!! ……!?」
男がゼフィーの姿を見て急激に青ざめる。
「そ、その馬鹿でかい斧……
「よく分かってんじゃねぇか。で? ぶつかったら何するのがマナーだって?」
男をギロリと睨むゼフィー。
「ひ……っ!?」
男は脚をガクガクと震わせると、人混みの中へと逃げて行った。
「なんだったんだあの男は?」
「気にすんな。ただのチンピラだろ。ほら」
ゼフィーが私へ手を差し出す。
「人多いからよ。俺様の手、握ってな」
「悪いな」
「お、おう。ちゃんと案内してやるからよ」
ゼフィーの手を取る。なぜかゼフィーはそこから目的の店まで私の顔を一切見なかった。
……。
人混みの中を抜け、辿り着いたのは「リルガル食堂」という小さな店。そこの中に入ると、初老の男性が1人。厨房で料理をしていた。
「おうゼフィー。なんだその可愛い嬢ちゃんは?」
「俺様の連れ」
「ふぅん。ゼフィーが人を連れて来るなんて珍しいな」
「うるせっ。それよりいつもの2つ」
「あいよ」
店主が厨房の奥へと入っていく。
厨房から聞こえる調理の音。それを聞きながらゼフィーと次の任務について話す。
しばらくすると、パンに照り照りと光るチキンが挟まれた料理が出て来た。
「ロティールサンドって言う料理でよ。この辺りのお袋の味なんだ」
「詳しいな。ゼフィーはこちらの出身ではなかったはずだろう?」
「あれだよアレ。こっちに来たばかりの頃……長く居着くからよ、それなりに地元の味ってのを知っとかなきゃいけねぇと思ってよ」
「そういうものか」
「飯は生活の中心だからな。食ってみろよ」
ゼフィーに勧められて、ロティールサンドを一口食べる。
香辛料が効きながらも少し甘いソース。チキンのジューシーな味わい、サケサクしたパンの食感が見事に合わさった料理だった。
「美味しいな。これは……」
「お! アレックスも気に入ったか!? 俺様はこれが好きでさ〜! ロリヴァーナイツに入ってからこれが……」
興奮した様子で話していたゼフィーは、急に顔を赤くすると顔を背けた。
「ほ、ほら……初日にお前に悪いことしたからよ……その、詫びってヤツだ」
そうか。
それで……今日は待っていてくれたのか。
「ゼフィー」
「ん?」
「ありがとう」
ゼフィーは一瞬目をウルウルと潤ませたあと、ニッと無邪気な笑みを浮かべた。
「おう! また来ようぜ!」
―――――――――――
あとがき。
ゼフィー日常回でした! 次回より本編に戻ります。お楽しみに!
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