第7話 最強vs閃光

 オサナイ村の一件から数日後。


 ──キーダ王国。


 早朝の鍛錬にニアを呼んだ。あの一件以降、私はさらなる強さを求めていたから……。



「……じゃあ行くよ。いい?」


「ああ。頼む」


 ニアが弓矢を構える。その瞬間に放たれる矢。それが真っ直ぐ私へと向かう。


「……っ!!」



 キィンッ!



 剣を払い、矢を弾き飛ばす。


「やるね……っ! だけどこれから!」


 ニアが続け様に3本の矢を放つ。その速度は並大抵の兵士では届かない。先日見たのジャロリスを倒した技術。


 さすがだニア……っ!



 キンキンキンッ!!



「すごい……っ! これも弾いちゃうなんて!」


「ニアの全力を見せてくれ」


「全力……? 分かった……ボクもアレックスを見てたら燃えて来た。全力で行かせて貰うよ」


 ニアが矢を構え、その眼光が鋭くなる。明らかに先程までとは違う顔。殺意の籠った瞳。



 ……私を信じて全力を出してくれるのだな。



「来い! ニア!!」



「行くよ!」



 ニアの掛け声と共に矢が放たれる。



「これならば……っ!」



 そう思った矢先。



「油断!!」



 一瞬にして移動したニア。彼女の矢が真横から私を狙う。

 


「な!?」



 そんなことが可能なのか!?



 ……いや、今目の前にしているということは、できるのだな。「閃光のロリババァ」ニアならばっ!!



「ならば私も全力で行かせて貰う!!」



 片方の矢をギリギリで躱し、もう一方を弾き飛ばす。



 キィンッ!!

 



「まだまだ!!」



 その瞬間を狙ったように水平に放たれる3本の矢。



「やるっ! だがその軌道は失敗だったな!」


 水平に並ぶ・・・・・3本の矢。凄腕のニアだからこそ犯した過ち。



 そこを突く!!



キィンンッ!!!



 ピタリと横一列に並んだ矢を一太刀で薙ぎ払う。



「嘘だ……っ!? 流石にこれは避けると思ったのに……全部真正面から弾き返すなんて……っ!?」



 ニアが私へと真っ直ぐ走って来る。



「だけど! ボクだってもう止められない!!」



「来い!!」



 ニアに突撃し剣を叩き付ける。ニアが懐からダガーを取り出し、剣をいなす。


「ふっ! これがロリヴァーナイツの力か!!」


「アレックス!!」


 キンキィンッ!!


 ニアがダガーで2度斬撃を繰り出す。それを剣で受け止め反撃を繰り出した瞬間、ニアが私を蹴り、空中へと飛び上がる。



「……っ!」



 ニアの目がギンと鋭くなる。



 彼女が空中で回転しながら弓を構え、矢を放つ。



 剣を振り下ろしたばかりの私へ直撃する軌道。

 


 真っ直ぐ向かって来る。私の顔に。



「しまった!? つい熱くなって……っ!?」



 ニアの驚く顔が映る。



 そうか。閃光のロリババァを熱くさせるほどの一撃を放ったのか私は。



 剣は使えない。避けることもできない。



「アレックス!!! 避けて!!」



 ニアの声が聞こえる。左手だけが微かに反応する。



 矢が今、目の前に……。




 動け。




 動けえええええぇぇぇ!!



 急速に集中力が上がっていく。時の流れが遅くなる。その中で左手を無理矢理動かす。



 掴める。今なら……っ!!



 次の瞬間。

 


 パシッ!!



 時間は通常の速度に戻り。私の左手は目の前の矢を掴んでいた。



「う、嘘……っ!? 矢を素手で掴むなんて……っ!?」



「はあ〜……」



集中力が切れて地面へと座り込む。



「アレックス!?」



 ニアの差し出した手を掴んで起き上がった。



「物凄い技だった」



「……ごめん。熱くなって」



「いや、嬉しいよ。ニアが熱くなってくれて」



「ごめん」


「気にしないさ」



 足で地面をなぞるニア。



「でも……ボクの全力でも、アレックスには通用しないんだね。僕も、もっと鍛錬を積まないと」


 己の全力を出してなお勝てなかった悲しみ……私にも分かる。私も魔物と戦い始めた数年間は、その連続だった。



 ……。



 潤んだ瞳。彼女の顔が少し寂しげに見える。



 その様子がなんとも言えない気持ちにさせた。



 ん? これが……「可愛い」という感覚だろうか?


 ショックを受ける彼女をそう思うなんて、屈辱だろうか?


 だが、どうしても口にしたい衝動に駆られてしまう。



「ニアのその仕草、可愛いな」



「え……っ!?」


 驚いたように顔を赤くするニア。しまった。やってしまったのか?


 ニアに不快な思いをさせてしまっただろうか?



 私はどうも他者の心がわからない性質たちのようだからな。



 ……。



 そうだ。



 この国に来た時、最初に私の事を「可愛らしい」と言った兵士君はどんな風に言っていただろうか? あの時私は確かに「褒められた」と感じた。なら、アレと同じ感じで言えば……。


 あの時、私は確かに兵士君の「感情」を感じた。なら、それを言葉にすれば良いのだな。


「すまない。その、思ったまでを口にしたつもりだったが……失礼だったか?」


「ふぇ……っ!? 思った、まま?」


 ニアの顔が赤くなりすぎて大変なことになっている。こ、これは怒らせてしまったのだろうか。


 マズイぞ。マズイ。このままでは騎士団長としての責務を全うできない。ニアがもし怒りのあまりロリヴァーナイツを辞めるなどと言い出したら……。


「気を悪くしないでくれ! ニアが大切だから、その、気分を害する気は無かったんだ! ニアが怒ると私は……悲しい」



「〜〜〜〜!?」



 ニアはバタリと倒れる。そのままフルフルと小刻みに痙攣けいれんすると、動かなくなってしまった。



「ニアアアアアア!!」




◇◇◇


「たくよぉ〜! なんで俺様のいない所でこんなことになるかなぁ!」


 急いでゼフィーを呼びに行き、医務室へとニアを運ぶ。彼女の様子はと言うと……。


「ウェヘヘへ……アレックス……ふへ、へへ」


 先ほどからずっとこの様子だった。


「ああもう。何したらこんな風になるんだよ?」


「すまない。ちょっと……それは言えない」


「なんで俺様には言えないんだよ?」


「いや、ゼフィーまでこうなったらと思うと……怖いんだ……」


 目にジワリと暖かい物が浮かぶ。これは、悲しみだろうか? 仲間を失うと悲しいのだな。


「ちょっ!? 泣くなって!」


 慌てるゼフィー。彼女は困ったように顔を背けると、あるドアを指す。


「ほら。医務室はあそこだ」


 医務室を開ける。そこには医者と思わしき女性が椅子に座っていた。


「あら? どうしたのゼフィーちゃん」


「ちゃん付けで呼ぶんじゃねぇ! それよりもニアがぶっ倒れちまったんだ! 頭打ったみたいだから見てやってくれ!」


「え〜? ニアちゃんが? 珍しいわねぇ」


 女性がニアの頭を見る。うっすらと血の滲む頭。それに回復薬をかけると包帯をぐるぐると頭に巻いた。


「はいこれでよし。受け身も取らず倒れてるわね。それとも何かでぶん殴られた?」


「いや、私と話していたら、突然……」


「そう? なら別の問題かもね〜」


 女性がニアをベッドへ寝かせる。


「しばらく寝てれば目を覚ますでしょ。というか」


 急に女性がズイッと顔を寄せて来る。


「貴方がアレックスちゃんね。ちょうど私も用事があったのよ」


「貴方は?」


「私はイーシア。ここの兵士達を見る医者よ」


「イーシア……それで? 私に話とは?」


「貴方の前任者。ガーラのことよ」



 イーシアは悲しそうな顔をした。




―――――――――――

 あとがき。


 次回。新たなロリババァ、ガーラの元へ向かうアレックス。ガーラはどのような人物なのか……? お楽しみに!



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