第8話  TS幼女双剣使い「ガーラ」

 私とゼフィーは、倒れてしまったニアを医務室へと預け、ガーラの元へ向かっていた。


 イーシアから聞いた、元騎士団長「ガーラ」の容態。


 状況はかなり酷いらしい。元々ロリババァ化した者が後天的に退行する例はほぼ無いという。


「このままいけば精神が幼女のまま固定される可能性があると言っていたな……」


「なんとかしろって言われても俺らじゃどうしようもないよなぁ?」


 ゼフィーが困ったように頭を掻く。


 ……。


 イーシアからはとにかく会いに行けと言われたが……どうする?


「なぁゼフィー。ガーラはなぜ退行してしまったんだ?」


「うん? それがよぉ……俺様とニアは知らねぇんだ。残りのメンバーでなんかあったらしくてよ。次の任務の打ち合わせに行ったらガーラの奴が……」


「退行していたということか」


「ああ。それからロリヴァーナイツはなんだかおかしなことになっちまった」


「おかしなこととは?」


「うん? 全員揃うことが無くなった。みんな勝手に任務をこなすようになってよぉ……」


 ガーラが唇を尖らせる。


「俺様は、前のロリヴァーナイツ好きだったんだけどな……ガーラが中心になってみんなを率いてよ。最古参のイサリスのヤツとは良くぶつかったけど……」


 イサリス……「沈黙のロリババァ」と呼ばれる凄腕の傭兵だった者か。



 だが、ガーラは皆の精神的支柱だったということか。それが潰れてしまうとは……いったい何があったのだろうか?



 そんなことを話していると、ガーラの自室へと到着した。


「ノックしてみろよ。そうすりゃ分かるから」


 ゼフィーに促され、扉をノックする。



 コンコン。



 ─ひぃ!? 居留守使お……。



「ん? 今声がしたような」



 コンコン。



 ……。



「いないのか? 中から声がした気が……」


 ゼフィーが扉に耳を当てた。


「なんか動いてる音がするな。こういう時はこうすりゃいい」



 ゼフィーが勢い良く扉を叩く。



 ドンドンドン!!



 ─ひぃぃ!? 怖い!?



「また声がしたぞ」


「おいガーラ!! 声聞こえたぞ! 出てこい!!」



 ─ひえぇ!? バレちゃったぁ〜!



「開けねぇとこのドアぶち破るぞ!!」



「やめてええええ!!」


 扉から出て来たのはゼフィーよりもずっと幼い少女だった。


 その少女をよく見てみる。


 腰に装備された2本のショートソード。恐らく特注で作ったであろう小さな鎧。そして何より特徴的だったのは……顔全体をおおい隠すフルヘルムを被っているということだ。


「ふえぇ……やめてよぉゼフィー」


「お前が出て来ないからだろ」


「だってぇ……ガーラは任務したく無いんだもん」



 フルヘルムの少女、ガーラがゼフィーに文句を言う。


 しかし、チラリと私を見てはビシリと固まってしまった。


「ひっ!? 知らない人!」


 ガーラが慌てたように部屋の中へと逃げ込む。


「おっと。逃げんじゃねぇ」


 扉の隙間に足をガッと挟むゼフィー。扉が閉まらないことにガーラは諦めたようにこちらを見た。


「う〜……」


 どういう仕組みなのか知らないがそのフルヘルムの奥から2つの光がポワリと光る。


「お、お姉ちゃん誰……?」


「私は君の代わりにロリヴァーナイツの騎士団長に呼ばれたアレックスだ」


「そうなの? じゃあもうガーラはいらない?」


 フルフルと震えるフルヘルムの幼女。


「いや……どちらかと言えば君に戦って欲しいのだが……」


「無理ぃ!? 戦うのなんて無理だよぉ!? ガーラそんなことできないもん! 戦ったこと無いしぃ!」


 そのフルヘルムをフルフルと振るガーラ。元三英傑の1人なのだが、そこまで嫌がるか……。



「あ〜心配すんな。騎士団長として指揮はできねぇが……コイツの力は健在だ」


「だがゼフィー。本人が無理だと言っているぞ」


「……よし。ならよ。コイツを連れてロリゴブリンの巣へ行こうぜ」


「えぇ!? ロリゴブリン!?」


「ちょうど討伐を頼まれてただろ」


「今のガーラを連れて行くには危険じゃないか」


「無理だよぉ!」


 フルフル震えるフルヘルムのガーラ。怯えすぎてフルフル具合が大変なことになっていた。


「心配すんなガーラ。見学に行くだけだ。ちゃんと俺たちが守ってやるからよ」


「……嫌だっ!」


「じゃあこの任務終えたらお前の好きなルオリー亭のポップキャンディー買ってやるよ」


「じゃあ行く!」


 コロリと態度を変えるガーラ。それを見たゼフィーはニヤリと笑って耳打ちして来た。


(な? 今のコイツはガキで単純だ。説得するより菓子で釣った方が早えんだよ)

(連れて行ってどうする気なんだ?)

(ロリゴブリンの巣に放り込む)

(なんだと!? そんなことをしたら……)

(大丈夫だって。俺様とガーラを信じろ)



 やけに自信満々のゼフィー。


 仕方ない。いざという時は私が助けるか。




◇◇◇


 数時間後。



 ——キーダ王国周辺の森。



「ゴブ!」

「ゴブロリ!」

「ロリゴブゴブ!」



 茂みの中からロリゴブリン達の巣を観察する。洞窟の入り口ではゴブリン達が成人女性を巣へと引きずり込もうとしていた。


「誰かああああああ!!」


 木の棒に手足を括り付けられ暴れ回る女性。ロリゴブリン達は巣に入れようとするたびに女性に反抗され困り果てているように見えた。


「ゴブ!?(うるさっ!?)」

「ゴブリコ!(なんかソソられないんだよなぁ)」

「ロリゴブ!(俺達はおかしいのか……?)」

「ロリロリ!(いや! 俺達に限ってそんなことは無いはずだ!)」


何かを話し合っていたゴブリン達が、女性を縛った棒を再び持ち上げる。



「いやあああああああ!!」



「ロリコ(なぜだ)?」

「ロリン(なぜなんだ)?」

「ロリコン(なぜ我らはこの女に何とも思わないんだ)?」



 叫ぶ女性。その度に耳を押さえるゴブリン達。なんだかその様子が……。


「なんか嫌々に見えるぜ」


 ゼフィーが怪訝な顔でその様子を見つめる。


「ロリゴブリンは突然変異だからな。他のゴブリンと性質が違うのかもしれん」


「まぁいいや。ガーラ。俺様の斧の上乗ってみろ」


「え、なんで?」


「いいから。面白いことやってやるからよ」


「面白いことぉ?」


「じゃあ〜これやったらキャンディ2個買ってやる」


「ホント!? 乗る!」


 ゼフィーの斧の上に乗るガーラ。ゼフィーはそれを見てニヤリと笑った。


「おっし行くぞ〜! オラァッ!!」


 ゼフィーが大斧で掬い上げるようにガーラを投げ飛ばす。


「ひゃああああああ〜!!!」


 吹き飛ぶガーラ。彼女はロリゴブリン達の前にポテンと落ちた。


「いててて〜。ひどいよぉ〜」



 その瞬間。



 ゴブリン達の様子が変になる。



「ロリゴ?(小さい人間?)」

「ロリゴブ(なんだこのトキメキは)」

「ロリロブ(トゥクン……っ!)」

「ロリロリ!(体が勝手に!?)」


 ゴブリン達がガーラへと狙いを定める。


 「「「「ゴブ〜〜〜〜!!!」」」」


 そして、一斉に彼女へと飛びかかった。


「えぇ!? なんでえええ!?」



 森の中に、ガーラの声が響き渡った。



―――――――――――

 あとがき。


 次回。ガーラはどうなってしまうのか!?



 モンスター図鑑


 困惑小鬼ロリゴブリン


 ゴブリンの変異体。一体一体の戦闘力が非常に高く、危険。数も多い為、他国では兵士部隊が全滅したとの報告も上がっている。


 ゴブリンらしく成人女性を攫うのだが、成人女性達は何もされず解放される。


 帰って来た女性の証言では、ロリゴブリン達はずっと首を傾げるばかりだったという。


 ゴブリン達にもその理由がわからないようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る