第6話 統率者を倒せ

 装備を整え宿屋に出ると、オサナイ村の空には無数のキィーカー達が舞っていた。


「た、助けてくれぇ!!」


「ハハハァ!! 貴様も幼女にしてやろうか!」


 逃げ惑う村人達。ふと見ると、家に侵入された形跡もある。逃げ惑っているのは家から逃げ出した人達か。


「終わりだぁ!!」


 キィーカーがその両手に黒い球体を出現させる。


 魔女の生み出した「幼女化の呪い」を。


「ゼフィー! その斧で私を投げ飛ばせ!」


「!? 了解だぜ!」


 ゼフィーの持つ鉄塊のような大斧へ飛び乗る。彼女が全身のバネを使い、空へと私を放り投げる。


「オラアアアアアァ!!」


 空中を真っ直ぐにキィーカーへと飛んで行く。



「な、何だ貴様は!?」


「貴様達を殺す者だ!!」



 キィーカーの羽根を斬り飛ばす。そして、その体を蹴り飛ばし、近くにいた別の2体も叩き落とす。



 スパァンッスパァンッスパァンッ!!



「ぐわぁあああ!!」

「は、羽が斬られ……!?」

「落ちるぅ!!」



「ゼフィー! 仕上げは任せたぞ!」


「任せとけアレックス!!」


 ゼフィーがその巨大な斧を振りかぶる。


「オラオラオラァ!! まとめてあの世にいきなぁ!!」


 ブオオォンッ!!


「あぐっ!?」

「なぜよう……ぁ!?」

「ぎっ!?」


 物凄い風圧と共に真っ二つになるキィーカー達。その様子を見た他のキィーカーも恐れるように後退りした。


「ま、まさかコイツらロリバ……バぁっ!?」


 怯んだキィーカーの頭に矢が突き刺さる。ニアは、それを掴むとと、キィーカーの頭から矢を引き抜いた。


「勿体無い。まだまだ来るだろうから」


 再び弓を構え空へ矢を放つニア。


「ギャっ!?」

「グアっ!!」

「なあ"!?」



 放射状に飛んだ3本の矢はそれぞれキィーカー達を射抜ぬく。


 その様子を見ながら大地へと着地した。


「流石だぜアレックス!! やっぱり俺達相性ピッタリだなっ!」


 興奮した様子でゼフィーが抱き付いて来る。


「まだ油断するなゼフィー。これだけの数だ。統率者がいる可能性がある」


「統率者ぁ? ニア知ってるか?」


「……知らない。僕の時は魔女本人がいたから」


「そうか。2人共戦ったことは無いか」


 その時。



「アンタァァァッ!!」



 宿屋の方から女性の叫び声が聞こえた。



 この声。宿屋の……っ!?



「私が行く! ゼフィーとニアは他の者を!!」


「分かったぜ!」

「……任せて」


 村を駆け抜け、宿屋へと向かう。


 


「邪魔だあああああ!!」



 スパンスパンスパァン!!


「ぎぁっ!?」

「あぎっ!?」

「ガァァ!?」


 村に蔓延はびこるキィーカー達を斬り伏せながら走る。


 宿屋の入り口ではキィーカーをブクブクと太らせたような醜悪な影が立っていた。



 巨人のような大きな体。岩石のように太った体。丸太のような腕の……。


 キィーカーの上位種。


 メスゥーガ・キィーカーが。



「ギヒッ。メスゥーガ様の新しい獲物が来たかぁ?」



「かっ、は……はな、して」


 その手には1人の子供がいた。首を掴まれ、苦しそうにもがく幼女。茶色いショートヘアの小さな娘。しかし、その子が着ている服には見覚えがあった。


「まさか……宿屋の主人が……」


「あの人を助けておくれよ! アンタロリババァなんだろ!?」


「父ちゃあああぁぁぁん!!」


 宿屋の女将が私にしがみついて助けを求める。彼の子供が大粒の涙を流す。



 それを見た瞬間。私の中で何かが弾け飛んだ。

 


「ギヒヒヒ……お前はもう幼女化してるっぽいなぁ? なら苦しませて殺さないと……ん?」


 スパァンッ!!


 メスゥーガの懐に飛び込み、幼女を掴む腕を斬り飛ばす。


「あ"っ!? ああああああああ!!」



 痛みにのたうち回るメスゥーガを横目に幼女……宿屋の主人を抱き止め、女将へと渡す。


「アンタァ!」

「父ちゃんっ!!」


「うぅ……」


 ボロボロになった宿屋の主人。それを見て私の胸の奥がひたすらに熱くなる。こんな感覚は初めてだ。自分の生死とは異なる所で、これほどまでの怒りを覚えることがあるとは。


「仇は打つ。下がっていてくれ」


「あ、あぁ! 分かったよ……っ!」


 女将が幼女を抱きしめ、息子と共に走って行く。それを見届けてメスゥーガへ剣を向けた。


「貴様は殺す。絶対にだ」


「殺すだぁ〜? テメェのその綺麗な顔ボコボコにして一生飼い殺しにしてやるヨォ!!」


 メスゥーガが力を入れると、斬られたはずの腕が瞬時に再生する。そのまま両腕を私に向けて叩き付ける。



「死ねエエエエエエ!! 雌ガキガアアアアア!!」


 その腕を飛んでかわし、ヤツの顔面に蹴りを入れる。


「ガァ、あ"!? 速い!?」


「遅すぎるんだよ。デカブツが」


「ガハッ!? このぉ!!」


 メスゥーガは大木を掴む。ベキベキベキという音と共に気を引き抜き、めちゃくちゃに振り回す。



 ブオオオォンッ!!



 振り回される気を紙一重で避ける。



 ブオオオォンッ!!



 飛んで避ける。



「こんのぉおおおお!!」



ズガァァァァン!!



 叩き付けられる木。しかし、当たる直前で身を翻し避ける。その動き全てが私には遅すぎた。



「なぜだ!! なぜ当たらないいいぃぃ!!?」



「貴様の攻撃などゼフィーの足元にも及ばん。私には……届かんぞ!!」


「ぐっ!? ここは一旦……っ!?」


 勝てないと悟ったのか、メスゥーガがその翼を開き、その巨体で空へと舞い上がる。



「お前達!! コイツを殺せ!! 今すぐにだ!!」



 メスゥーガの声に合わせてキィーカー達が集まって来る。


「メスゥーガ様が戦闘中だぁ!」

「あのガキを殺せぇ!!」

「死ねぇええ!!」


 バサバサと響く翼の音、キィーカー達から放たれる弓矢。それを剣で叩き落とし、宿屋の壁へと走る。宿屋の壁を蹴り、キィーカー達の頭上に飛び上がる。


「「「何!?」」」


 一斉に見上げるキィーカー達を踏み台に空中のメスゥーガへと飛び込む。



多重連斬ガトリングスラッシュ!!」



 折り重なるように放つ連続斬撃。それが、メスゥーガの羽根を叩き切り、全身に無数の傷を刻み込む。



「ギャアアアアアアアアア!!!?」



 メスゥーガが全身から血を吹き出しながら大地へと叩き付けられる。


「メスゥーガ様が!?」

「逃げろ!」

「うわあああ!?」


「逃すか!!」



 スパンスパンスパァン!!!



 「「「うぎゃあ"あああ"ああ!!?」」」



 キィーカー達の首が吹き飛ぶ。


 着地すると、メスゥーガは口から血を出しながら私を見た。



「がは……っ! お前まさか、ロリ……バァ……」



「アレックスだ。あの世に持って行け……っ!!」



 スパァンッ……ッ!!




◇◇◇


 その後。残った残党を片付け、オサナイの村の襲撃は幕を閉じた。今回の襲撃で出た被害者は1人。


 1人。


 奇跡的な数字だ。客観的に見れば撃退は成功だ。誰しもが喜びを分かち合うだろう。


 だが……。


「ママ〜!」


「元気になって良かったねぇ〜!」


 女将が幼女となった主人を抱きしめる。彼女達の息子も、そんな子供となった父を一生懸命に世話をしていた。


 あれから数日経ち、主人は元気を取り戻した。しかし、家族の記憶は失われており、再び彼女達の名を口にすることは無かった。


「本当にすまない。私が来ていながら……」


「何言ってるんだよ! 絶対に外に出るなと言ったのを破ったのは私達さ。アンタのせいじゃ無いよ!」


 女将が私の肩をポンポンと叩く。


「アンタ達のお陰でもう襲撃も無くなった。感謝しかないよ!」


 女将と息子は、幼女となった宿屋の主人を連れて家へと帰って行く。


「アレックス。気を落とすなよ。お前のせいじゃねぇ」

「そうだよ。乗り越えられるさ。家族なら……」


「ゼフィー。ニア……ありがとう」


 胸に刺す痛み。これは私を一生縛る痛みになるだろう。


 どうか。宿屋の主人。どうか幸せに……。



「うぅ……アタシは? なんだか物凄く頭が痛いんでやすが……」


 急に、聞き慣れた話し方が聞こえた。


「あ、アンタ! 記憶が……っ!?」

「父ちゃん!! オイラのこと分かる……?」



 振り返ると、幼女が2人の顔を交互に見ていた。そして、大粒の涙をボロボロ落とすと2人を抱きしめる。


「あ、アタシは……忘れてない……忘れてないよ2人のこと……っ!!」


「良かった……本当に……アンタ……っ!」

「良かったああぁぁうわああぁぁん!」



 抱き合い、泣きはらす家族。


 ……。



 そうか。私の目は間違っていなかった。あの主人は……。



「驚いたな。ありゃあロリババァになってるぜ」

「奇跡……」


 驚いた顔をするゼフィーとニア。そんな2人の手を取り、引っ張って行く。


「どうしたんだよアレックス?」

「あの人達の所へ行かないの?」


「ああ。我らの仕事は終わった。帰ろう」



「おい! もしかしてアレックス……!?」

「ダメ……っ! そっとしておいてあげて」

「でもよぉ〜? 泣いた顔も可愛いぜ〜?」

「本当にゼフィーはデリカシーが無い」

「なんだとコラァ!?」


 後ろが騒がしい。だけど、今はそれが心地良い。


 怒って、悲しんで……1人で戦っていた時には味わった事のない苦しみ。



 だけど今、安堵している。仲間達に感謝している。



 ……。



 もう一度誓おう。私は必ず魔女ヨージョカを殺すと。



 私は戦うことしかできない。これまでも……これからも。だけど、私が戦うことで誰かが救われるなら、それでいい。


 それでいいんだ。



―――――――――――

 あとがき。


初ボス回でした!


もし少しでも先が読みたい。続きが気になると思われましたらぜひ⭐︎⭐︎⭐︎を押して頂けれると嬉しいです!よろしくお願いします!



モンスター図鑑


メスゥーガ・キィーカー


キィーカー達の上位種。複数のキィーカーを従え、気に入った村を執拗に襲い続ける。キィーカーをブクブクと太らせたような存在で、巨人のような大きさ、怪力を誇る。背中の羽根で飛ぶと大量のエネルギーを使う為、あまり飛びたがらない。

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