第5話 閃光の実力

 オサナイ村で情報収集をして分かった。やはりこの村を襲っているのはニアの言っていたキィーカーということが。奴らは数日おきにこの村を襲い、無作為に呪いをかける。既に複数の被害者が出ているようだった。



「お姉ちゃんみっけ!」

「次は鬼ごっこしようよ!」

「ヤダヤダ! お姫様ごっこがいい!!」



 村の外れの広場では子供達が駆け回っていた。一見すればのどかな光景。


 だが……。


「あれ見てみろよアレックス」



「ひぐっ……お姉ちゃああん……」

「大丈夫? もうお家に帰る?」



 ゼフィーが泣いている少女を指す。それはあの中でも一際幼い少女だった。その近くではその少女が姉と呼ぶもう1人が困ったような顔をしている。


「あれなぁ。あの泣いてるのがこの村の村長だった爺さんだぜ。隣にいるのがその孫だ。記憶まで退行しているせいで孫のことを姉ちゃんだと思ってるらしい」


「……ひどい」


「昔のこと思い出しちまうかニア?」


「そうだよ……っ!」


 静かな怒りを燃やすニア。それを見て彼女の肩を叩く。


「どうしたのアレックス?」


「キィーカー共に……この世に生を受けたことを後悔させてやろう」


「そう、だね……ありがとうアレックス」


 ニアが私の手をそっと握る。


 仲間の精神負荷を取り除くのも私の責務。戦闘に集中できるようにしてやらなければ。



「……優しいね」



 なんだか視線が熱いような気がするが。



 その時。広場に悲鳴が響き渡った。



「きゃあああああ!!」



「ノジャ!!」

「ノジャア!!」

「ノジャアアア!!」



 子供達を追い回す大きなリスのようなモンスター。しかし、それは人のような長い髪を持つ不気味な姿をしていた。


「なんだありゃ?」


 不思議そうな顔をするゼフィー。彼女は遭遇したことが無いか。


「のジャロリスだ。魔女がリスを幼女化させた魔物……噛み付かれると幼女にされるぞ」


「マジかよ。あれも一種の魔女の手先ってことか」


 あそこにはまだ呪いを受けていない者もいる。あのリスに噛まれてしまえば新たな被害者が出る。


 剣を構える。あそこまで飛び込む間に被害者が出なければいいが。


「僕に任せて──」


 言い終わる間もなく、弓を構え矢をつがえるニア。彼女は目にも止まらぬ速さで矢を放つ。


「助けてえええ!!」



「ノジャアアア!!」



 スタンッ!!



「ジ……アッ!?」



 幼女を襲おうとしたのじゃロリス。その額に矢が突き刺さる。何が起きたか理解できないと言った顔をした魔物は、天を仰ぎ息絶えた。


「やるじゃねぇかニア」


「まだだ。ゼフィ黙って」


 ニアが続け様に2本の矢を放つ。それが、絶命した仲間の様子を見に来たのじゃロリス達の頭部に突き刺さった。



 スタンッスタンッ!!



「ノジャ⁉︎」


「ノジャ、ア、アアアア……」



 倒れ込むのじゃロリス。先ほどまで恐怖で逃げ惑っていた少女達がニアに駆け寄り抱きついた。



「ありがとうお姉ちゃん……!?」

「私……私……ひぐっ……」

「怖かったよぉ〜」


「もう大丈夫だよ」


 ニアが優しく少女たちを慰める。



 ……のじゃロリスの行動を予測し、さらに囮にまで使うとは。


「僕のことは気にしないで。早くお家に帰りな」



 少女達を家へと促すニア。彼女の言葉に子供達は家へと走って行く。



 彼女は嫌がるが心中では言わせて貰おう。



 ──閃光のロリババァ、ニア。


 その強さ、確かに見させて貰ったぞ。



◇◇◇


 その日の夜。私はゼフィー達に言われるがまま裸でベッドへと入った。


 するとなぜかゼフィーとニアがベッドに飛び込んで来て私の体に絡みついた。


 なんだこれは? これが都会流の就寝方法なのか? 寝づらくて仕方ないな。


「うわやべぇ……めちゃくちゃスベスベじゃん」

「ゼフィーちょっと離れて」

「嫌だね。アレックスは俺様のもんだ」

「いつそんなこと決めた……!?」


「おい。なぜ2人ともまとわりついて来る? 寝づらく無いのか?」


「寝づらい? いやぁ? 俺様は今最高に癒されてるぜ……」


「なぜ私のを揉むんだ?」


「気持ちいいからだよ〜! はぁ……めちゃくちゃいい匂いするぜ……」


 ゼフィーが私の首筋に頬擦りする。彼女のクルクルした髪が当たってくすぐったい。少し声を漏らしてしまうとゼフィーは嬉しそうに笑った。


「ニア。なんとか言ってくれ」


「……安心する。お母さんみたい」


 ニアもトロンとした表情で私の体に顔を埋めるだけ。


 ダメだ。言ったところでなんの意味も無い。2人とも惚けたような顔をして私の体を触って来るだけ。確かに人肌は心地良いが……どういう意味があるか今一分からないな。


「な、なぁいいだろ? こうしてたら興奮して来るんだけどよ……」

「ダメ……っ! そういうのはしないって約束だった」

「ちぇっ。頭固ぇなぁニアは」

「固くない。ゼフィーが緩いだけ」


「静かにしてくれ。寝られないだろ2人とも。それとも今すぐ別部屋にして貰おうか?」


「う……分かったよぉ」

「静かにする……」


 2人とも残念そうな顔をすると目を閉じた。



 これでやっと寝られるな。



 ………。



 村長までも犠牲になった村……か。私は意識したことがなかったが、家族が分からなくなるとは……実際目にして初めて痛感した。


 ヨージョカは必ず殺さなければ。


 ヤツがいる限りこの世界に平穏は無い。


 その為にはまずこの村を襲うキィーカー達を……。


 考えながら徐々にまぶたが重くなる。そして眠りに落ちる寸前。



 村中に敵襲を知らせる鐘が響き渡った──。





―――――――――――

 あとがき。


 次回。キィーカー達の襲撃にアレックス達はどう立ち向かうのか?



モンスター図鑑


 のじゃロリス。


 リス型モンスターが魔女の呪いによって幼女化した存在。

 人間のような長い髪を持っているが顔はリスそのもの。非常に気味が悪い。噛まれた者は幼女にされてしまう。


 キーダ王国のロリス国王は、自身の名前が入った「のじゃロリス」の名前が世界中へ知れ渡っていることに頭を抱えている。


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