第94話
「ご無沙汰しております」
「ステラ様、この前は素敵な贈り物をありがとうございました」
出産後、少し体調の悪かったパトリシア様だが、公務に戻ったと聞いて、早速顔を見に来たと言う訳だ。
パトリシア様は王子を産んだ事で、大きなプレッシャーから解き放たれたのか、はたまた出産後の美しさからか、今までよりも更に輝いている様だ。その笑顔は大輪の薔薇のよう。
「出産祝いですもの。ちょっと奮発してしまいましたわ」
と私がウィンクすれば、パトリシア様は、
「あ!そうですわ。今日は折角お越しいただいので、私個人からのお祝いをお渡ししたいと思っておりましたの。本当なら結婚式にも参加したかったのですけど……」
と少し残念そうに言う。
「オホホ。二度目だというのにお恥ずかしい……」
と私は思わず引き攣った笑顔を扇で隠した。
そう私はつい先日、テオと結婚した。
結婚式については、揉めた……。いや、結局はテオの希望通りになった訳だったのだが。
『結婚式?そんなの必要ないわ。結婚式なんてやろうと思ったって直ぐには無理よ?準備も大変だし』
『大丈夫ですよ。既に準備済みです。リューン!』
いつの間にやら、リューンを手懐けたテオはリューンを呼ぶ。リューンは私に結婚式の概要の書かれた書類を手渡した。
『もちろんそんなに派手にはしませんよ。間違いなくステラ様が嫌がると思いましたので』
『当たり前よ!それに私は離縁したばかり。そんな私が派手な結婚式など出来る訳ないでしょう?』
と少し怒って言う私の手を握って
『ステラ様……私はステラ様のウェディングドレス姿が見たいのです。父とは挙式していないんですよね?なら、二度目ではなく、結婚式は初めてですよね?私の願いを叶えて下さいませんか?』
と首を傾げてにっこり笑うあざといテオに、私は頷くしかなくなった。まぁ、結果的に私の両親や兄や姉の家族からは喜ばれたのだが。
それにしても……いつの間にテオは、あんなあざとい技を手に入れたのだろう……まさか隣国では色んな女性を相手に……?
いやいや、まさかそんな…。
と、頭をフルフルと横に振る私に、
「ステラ様、どうなさいまして?」
とパトリシア様が少し心配そうに声を掛けた。
つい色々と思い出してボーッとしてしまった。
「いえ、失礼いたしました。でも、王家からは立派な贈り物を既に頂きましたのに…」
と遠慮する私にパトリシア様は、
「私から個人的に贈りたかったの。だってステラ様は私のお姉様のような方ですもの」
と微笑むパトリシア様が美しすぎて眩しい。
「ステラ!!!」
王宮のパトリシア様のサロンから出た私に向かって手をブンブンと振りながら走ってくるのは、
「テオドール様です」
私の後ろのムスカに言われる。
「見たらわかるわ。どうしたのかしら?」
今日はタイラー伯爵領へと出発する予定だったと思うのだが……。
そんな事を考えていたら、私にたどり着いたテオは私を思いっきり抱き締めた。
「テオ!ここは王宮よ!」
私は慌てて引き剥がそうとするも、テオの力は強く、私は早々に諦めてテオにされるがままだ。
その後ろから苦笑しながら、こっちに向かって来るのはアーロンと、テオの護衛のカールだ。
「テオどうしたの?タイラー伯爵領に向かったんじゃ……」
「向かってたんだけど、ステラと十日も会えないと思うと寂しくて」
と言うテオに私は恥ずかしくて顔を赤らめた。
結婚してからというもの、テオは私に自分の気持ちを隠さず全て伝えてくる様になった。
出会った頃無表情だったテオはもう何処にもいない。
寂しがるテオを何とか宥めて、馬車まで共に向かう。
その間もずっと手は繋がれたままだ。
「パトリシア妃殿下はどうだった?」
「とてもお元気そうだったわ。妊娠中から色々と辛い思いをされてきたけど、何ていうのかしら……神々しい程の美しさがあったわ。子どもを産んだ女性はとても美しいと聞くけれど、本当ね」
と私が微笑めば、
「私達も頑張ろうね!!」
とテオは握った手に少し力を込めた。
私はまた顔が赤くなる。王宮で何て事を言うのだ。
「テ、テオ……なんてこと!」
と私が慌てると、
「また、照れて。本当にに可愛い」
と真っ赤な私の頬にそっと口づけてクスッと笑う。
「~~~っ!もう!」
と私はテオを睨むも、彼は全く気にしていない様だ。
テオは最後の最後まで別れがたい様子だったが、何とかアーロンが馬車に乗せた。
これ以上遅れると初日の宿屋に日が暮れるまでにたどり着けないと言われて渋々従っていたが、かなり後ろ髪を引かれている様子につい私も笑ってしまった。
テオの乗る馬車を見送って、私も自分の乗って来た馬車に乗り込む。ムスカはパトリシア様から送られた立派な花瓶を大事そうに抱えて私の向かいに乗り込む。馬車の中にはソニアが待っていた。
ソニアは私達のやり取りを馬車の窓から見守っていた様で、
「奥様も……大変ですね」
と苦笑する。
「ねぇ、テオってあんな子だったかしら?まさか留学中に何かあったんじゃ……」
「何かって何です?」
とムスカが私に尋ねる。一見無表情に見えるが口の端が少し上がってる。……楽しんでるな?
「べ、別に……」
と私が口を尖らせれば、
「嫉妬も恋愛のスパイスですね」
とソニアもニヤニヤする。
……もう!!
私は二人の視線から逃れる様に動き出した馬車の窓の外に目を向けて、思わずため息をつく。
すっかりテオのペースに乗せられている私の姿が窓に映っていた。
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