第93話

『私がステラ様を愛しているからです』

テオの言葉が私の頭にこだまする。


ただ……言葉の意味が理解できない!!!

え?どういう事??


私の脳内はただいまパニック中。

もちろん言葉を発する事など出来ていない。


「ステラ様……返事をいただけませんか?」


へ、返事?何の?あ~結婚!!私、今結婚を申し込まれたんだ!


「ご、ごめんなさいテオ」


「だ………ダメですか。私では。まだステラ様に不釣り合いでしょうか?」

私の手を握ったまま俯くテオに、


「あ!違う!あの、ごめんって言うのは断ったんじゃなくて……」


「じゃあ……『YES』?」

首を傾げて私を見上げるテオがあざとい。


「いや、そうじゃなくて……。どちらでもないというか……正直な話をしても良い?」



「もちろん」


私は一つ深く息をついてテオの目を見る。


「私……テオの事をそんな風に見た事がないの。……そんな風っていうのは、その……」


「わかっています。ステラ様が私を男として見ていない事は。だから……意識させる為に結婚を申し込んだんです。出来ればもう少しカッコよく決めたかったんですが」

とテオは少し苦笑した。


「意識って……。テオ、私と貴方では年齢が違いすぎるわ」


「父とステラ様だって十三も違った。十の歳の差なんて大したことありませんよ」


「確かに私と公爵様には歳の差があったけど、男性の方が上なのは……」


「隣国では、その考えはありませんでした。『男』だとか『女』だとか。能力があれば女性でも領主になれる。ステラ様だって立派に代理を務めたではありませんか。きっと我が国もいずれそう言う風に変化していく」


「でも……」


「私を嫌い……だというなら断って下さい。その時は離縁はしていただかなくて良い。前公爵……夫人として、ステラ様がやりたい事を自由にやって下さって構いません」


「そんな言い方、意地悪だわ」

私がテオを嫌うわけないのに。


「知ってます。こんな言い方をすればステラ様が困るのは。でも私も切羽詰まってるんです。ここでステラ様に断られたら……明日から生きていけない」


「そんな……大袈裟よ。でも、どうして私なんて……」


「『私なんて』?ステラ様は自分の価値をわかっていなさ過ぎです。私は貴女に出会えたから変わる事が出来た」


「貴女は……お母様との……アイリスさんとの関係が悪かったでしょう?きっと私の事を、その……」


「今まで一度もステラ様を母親と思った事はありません。ステラ様が私を……息子として導こうと努力して下さったのは理解していますが、私は違う。ずっと、貴女が好きだった」


私はテオの告白にびっくりしていた。ずっと?私を?

今更ながら、テオの言葉に恥ずかしくなってきた私は、自分の顔に熱が集まってくる感覚に俯いた。


『ずっと』って……。


「どうかしましたか?」

とテオが私の顔を覗き込む。私は思わず顔をそらした。


「もしかして……恥ずかしがってます?それなら、私のプロポーズは功を奏したって事ですね」

と満足気に言うと、嬉しそうに微笑んだ。


「どういう事?」


「だって、少しは私を意識して下さってるって事ですよね?」

というテオの顔はとても大人っぽかった。


私が少し時間が欲しい事を告げると、テオには


「もちろん待ちます。でも返事は『YES』のみですよ?」

と言われてしまった。


私の選択肢は今『YES』と言うか、もう少し時間が経ってから『YES』と言うかの二択……という事になる。



私が困っていると、


「私は絶対にステラ様を諦めませんし、最初は好意を持って貰えなくても良いです。これから先、時間を掛けてでも、私を好きになって貰いますから」

とテオはそう言った。


なら……私が今言うべき言葉は一つ。


「テオ……ならば、貴方の気持ちを受け入れるわ」

と私は諦めた様にそう言った。



次の日には、私と公爵様の離縁の届け出が出された。

受理されるのはもう少し先になりそうだが、テオはご機嫌だ。



「随分と早くプロポーズを受け入れましたね」

と苦笑するアーロンに、


「……悩んだって結果が同じなら、早くに結論を出した方が良いと思ったの」

と私はため息をついた。


「テオドール様は、焦っているんですよ。

自分が公爵を継いだ後、ステラ様がどこかに行ってしまうんじゃないかと心配だったんだと思います。

それに公爵になったら、釣り書が山の様に届いて、ステラ様が喜々として、テオドール様の婚約者選びを始める事が容易く想像できて、それは彼も面白くないのでしょう」


……確かに。


本当なら十八歳になった時点でテオは公爵様の養子になる予定だったが、留学のせいで延期されていた。

私と公爵様の離縁が認められたら、直ぐにテオはオーネット家の養子になり、彼が公爵を継ぐ事が決まっている。

そして同時に私との結婚を発表するという手筈だ。……全てテオの計画通り。


とにかくテオが帰ってきてからというもの、すっかり彼のペースだ。

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