中編

 この会は実際に起きている事件について、各々がこれではないか? という仮説を持ち寄り、議論を楽しむ。いわば犯罪同好会みたいなものだ。

 これまでも世間を騒がすような事件が起こるたびに、こうしてひっそりと御影みかげさんの喫茶店に集まり、事件についてとやかく、あーでもないこーでもないと議論を重ねてきた。そうして今回は、世間を騒がさている《切断師せつだんし》事件に白羽の矢が立ったわけだ。

 さて、そんな会のメンバーだが、話の内容と同じくらい濃いメンツが集まっている。推理フリークで探偵モドキの仕事をしている木崎きさきさん。この街のゆりかごから墓場まで、手広い層が通う大病院の跡取り息子である佐橋さはしさん。自称ジャーナリストで雑誌の編集者を務めている日々崎ひびざきさん。飲んだくれでいつもお酒を手放さないが、実は女流作家として活躍している羽柴はしばさん。こんなメンツに話し合いの場を提供するくらい犯罪好きな老人御影みかげさん。そしてそんな喫茶店に通っていたところを偶々数合わせとして参加させられたぼく。西野にしのさんは会の参加者ではなく、本当になぜだかわからないが、御影さんのツテで事件のアドバイザーとして参加してくれている、本職の警官だ(市民に情報を漏洩しているのがバレたら職的にアウトなのでは? と思う今日この頃)。

 実生活で何の繋がりもないが、犯罪と推理が好きというだけで集められた、純粋にオカシな集団だ。話の疑問は冒頭に戻るが、本当にこの会の創設者は誰なのだろう。

「また何か考え事をしているようですね、白鷺しらさぎくん」

 ホワイトボードにカツカツと文字を書き連ねている佐橋さんに、またしてもぼんやりしているところを咎められた。

「いやぁ、事件の反芻は大事だと思いましてね」

「なるほど、それはたしかに大事なことです」

 またしても言い訳を重ねる。佐橋さんにはそれが通じているのかどうか。返ってきた言葉も、果たして本心なのか皮肉なのかもわからない。

「では、それぞれの被害者の特徴や現場などは箇条書きで書いてみたのでご確認を」


 第一の事件 日時 三月二十一日、土曜深夜 被害者 新井弁慶あらいべんけい(六十五歳男性) 犯行現場 一本松神社いっぽんまつじんじゃ前の路上 切断箇所 両眼球 所持品 携帯電話、小銭入れ、懐中電灯、風呂敷 特徴 人当たりの良い好々爺。最近耳が遠くなってきていること以外特筆すべき点は無い。


 第二の事件 日時 三月二十八日、土曜深夜 被害者 千葉大地ちばだいち(三十歳男性) 犯行現場 五坂ごさか通りの公園 切断箇所 両耳 所持品 仕事用の鞄、携帯電話、財布、ランニング用の道具、小物入れの巾着袋(中身は空) 特徴 三か月前に事故で足を負傷。それのリハビリも兼ねて、仕事帰りに公園をランニングするのが日課になる。


 第三の事件 日時 四月六日、火曜深夜 被害者 藤原恵梨香ふじわらえりか(四十五歳女性) 犯行現場 足前あしまえの住宅街 切断箇所 両足(膝から下) 所持品 女性物のバッグ、携帯電話、財布、雑貨(なぜか櫛だけ鞄の外に放り出されていた) 特徴 人間関係も良好で、恨みを買うような性格でもない。最近の悩みと言えば、小さい頃にあった事故の影響か、腕が若干上がりにくくなってきていることと、年のせいか心臓が痛むと周囲には話していたそう。


 第四の事件 日時 四月十一日、土曜日深夜 被害者 後堂ごどうはるか(二十六歳女性) 犯行現場 藤宮ふじみやの路上 切断箇所 心臓 所持品 女性物の鞄、携帯電話、財布、雑貨(ハンカチやティッシュなどの小物)、新聞紙 特徴 心臓病で佐橋病院にかかっていた。術後の経過は良好。


 綺麗な文字でそう書かれた下に、被害者たちの生前の顔写真が張られている。

「もしかして、藤原恵梨香さんも佐橋先生の患者だったりします?」

 リストを見て浮かんだ疑問を、ぼくは佐橋さんに投げかける。同じ心臓病ならもしかしてそうなのだろうか。

「ええそうですよ。ですが彼女は私の直接の担当患者ではなかったので、三番目の事件の後、担当をしていた先生から実はそうだったんだよという話を聞いて、初めてそのことを知りました。あとは別件でもうちの違う科にかかっていたそうですよ」

 急な質問だったはずだが、ぼくとは違いチェックは欠かしていなかったようで、スラスラと色々なことを述べてくれる。

「こうして並べて見ても、共通点はなさそうに思えるんだよなぁ」

「あら、でもちゃんと仮説は持ってきたのよね、日々崎さん?」

「まあそれはそうだが、お約束としてこういうことは言っておかないと」

 漫才の様な日々崎さんと羽柴さんの掛け合いだ。そう、この会に出席する条件として、参加者は全員なにかしらその事件における仮説を持ってこなければならない。つまり、傍聴者として参加することは原則禁止されているのだ。だからこそ、自分たちの興味がない事件にはあまりみんな参加したがらないのだが、木崎さんと佐橋さんは皆勤賞らしい(どれだけ謎に貪欲なのか)。

 というわけで、今夜もこうして会が始まる。

 淡々と、粛々と、《切断師》についての議論を切磋琢磨していこう。


 *


 発表の順番は、その会の冒頭に参加者でじゃんけんをし、それで勝った順番にしていくことになる。まるで小学生の発表会の様な決め方だが、これを提案した御影さん曰く、「毎回決まった順にやるよりも、ハラハラしていいだろう?」とのことだ。それでこそ我らが御影さんだ。

 そして正々堂々と行われたじゃんけん大会の結果、今回の発表順は、御影さん→日々崎さん→羽柴さん→木崎さん→佐橋さん→ぼくに決まった。正直、この順番はやりにくさがある。なぜなら、木崎さんと佐橋さんの二人は、この会における正答率が異常に高いからだ。どちらかが発表したような結末が、しばらくした後に現実にニュースで報じられることの多さといったらもう……。

「始まる前からそんなしょぼくれた顔をしてどうするんだ、白鷺」

 木崎さんがニヤニヤと笑いながら語りかけてくる。

「俺らだって毎回正当を出しているわけじゃないってことは、お前も知っているだろ」

「まあ、そうですけどね……」

 某有名漫画のセリフではないが、『真実はいつも一つ』なのだ。それならば、誰かに真実を語られるより、自分で真実を語りたいのがヒトというものだろう。

「まあそういうことで言えば、今回の事件は普段とはちょっと違うわよね。だって今日は犯人を指摘するわけじゃなくて、事件のミッシングリンクは一体何ぞや? を議論する会なんだから」

 羽柴さんが言ったように、いつもは『この事件の犯人は~です、動機やトリックは~です』と議論する会なのだが、今回の《切断師》事件は勝手が違う。

 なにせこの事件はいわゆるシリアルキラー。犯人をピンポイントで言い当てるのは困難を極めることであろう。だけれどこれについて話はしたいよね……と悩んだ我々が考え付いたのは、犯人当てではなく、被害者の共通点当てだ。これならば、犯人を当てることより難易度は下がることだろうと結論付けられ、こうして開催に至ったのだ。

「各人が考えてきたミッシングリンク。さて、どんなものが集まったか。非常に興味深いね」

 トップバッターの御影さんは、コーヒーを飲みながら、ぼくらに向かってウィンクをしながらそう言うのであった。


 御影さんの仮説


「それじゃあ話していくことにしようか」

 御影さんは椅子から立ち上がると、佐橋さんと入れ替わるようにホワイトボードの前に立ち、ぼくらをぐるりと見まわす。

「とは言っても、今回もだが私には有力な説があるわけでもなく、ただそれっぽいことをそれっぽく話すだけなんだがね……コホン」

 わざとらしく咳払いをしながらキュキュと文字を書いていく。「私の説はこうだ」

『事件は全部無関係』

 おいおい、最初からとんだ説が飛び出してきたもんだ。

「あーっ! それあたしが言おうとしたのに!」

 案の定、こういう時にこういう推理をする羽柴さんが声を上げた。

「ハッハッハ。私より君の方が今回はちゃんとした仮説を立ててきているだろうという信頼から、この説を先に出させてもらったよ」

「御影さん、ではその説を挙げた理由をお聞かせいただきたい」木崎さんが鋭く言い放つ。

「そうだね……。たしかにこれは、全て同じ犯人によるものかもしれない。しかし、それぞれの事件にはあまりにも表面に繋がりがなさすぎる。果たして、これが全部繋がるような理屈と意思がそこにはあるのか? という考えが、私の根底にはあってね」

「その答えが、全てそれぞれ別の犯人であるという説ですか、なるほど」

 一考の余地はありそうですね、と佐橋さんは言う。

「その場合、《切断師》という存在が語られだしたことは、犯人たちにとって非常にありがたかったことでしょうね。勝手に全部を同じ事件だと見てくれて、存在しない殺人鬼を追ってくれているんですから」

「そういうことさ。これが単発の事件だったらこうはならなかったろうが、同じような事件がこうも連続で起きれば、それが同じ人間の手によるものと思ってしまうのが人間の心理。これはそれに上手いことハマった事件ということだ」

「ふーむ。たしかにそう言われると、なんとなく腑に落ちる説の様な……」ぐぬぬ……と唸りながら日々崎さんは言う。

「まあ御影さんらしい説ですね。ひとつのことに囚われず、周囲を広く見渡す視野があるというか」

 ぼくの言葉に木崎さんは頷く。

「しかしそれだと、これまでの各事件に有力な容疑者が現れていないのがネックになりますね。特に二番目の千葉大地殺害事件なんか、相当捜査されたにも関わらず、そういった存在は現れなかったわけですから」

「あっはっは。まあそういうことだ。有力な容疑者がいない、なおかつ犯行方法が同じことから《切断師》の存在が現れたわけだから、その一方が欠けてしまっているこの説は、事実と矛盾してしまっているんだ」

 あっけらかんと笑う御影さん。自分の説に固執しないのが、この人の良いところでもある。

「とかく私の仮説はこれにて終わりさ、さあ次は誰かな」


 日々崎さんの仮説


「あの二人より先で助かったというのが本音だ」そう前置きをしながら、御影さんからバトンタッチされた日々崎さんは、ホワイトボードの前に立つ。

「「この事件、悪いが俺が正解を出させてもらうぜ」

 いつになく自信ありげにそう言いながら、御影さんの文字の下に、つらつらとその説を書きだしていく。

『被害者の名前』

「もうっ! 日々崎さんもどうして私より発表順が先なわけ!」と、じゃんけんで負けたことを棚に上げている羽柴さんが叫ぶ。

「ふふふ。俺のじゃんけんが強かったことを恨むんだな。まあそんなことは置いといてだ、話をさせてもらうぞ──俺の考えた被害者のミッシングリンク、それはズバリ名前のイニシャルだ!」

「あぁ……」と小さく声を上げた木崎さんを無視し、「まず最初の被害者から見たまえ」とそのまま話を続ける。

「新井弁慶、つまりAでB。次に千葉大地、つまりCとD、藤原恵梨香、FとE。後堂はるか、GとH……もうわかっただろ」そうドヤ顔で言う。なので、「もうわかってますよ」とぼくは答える。

「つまり被害者たちはアルファベット順に殺害されたという説ですよね?」

「やっぱりわかっていたかー」と悔しがるように日々崎さんは言うが、その言葉からは全然悔しさは滲み出ていない。

「最初に考えた説だ。しかしそれだと、藤原恵梨香だけがどうして順序が逆になっているのかの理由がつかん」

 木崎さんの言葉に日々崎さんは「まあそうだろうな」と応じる。

「ここにいる全員がこの説を最初に思い浮かぶだろうとまでは思ったが、この説にちゃんと理由を付けてくるのは俺だけだと思ったぜ」

「ということは、逆になっていることにも理由があるのかね」御影さんが面白がるように尋ねる。

「勿論ですとも、今からそれをお聞かせしましょう……」そう言いながら、彼は両手をこすり合わせる。「はてさて、さっき言ってくれたように、俺の説はアルファベット順になぞらえて被害者が殺されていっているという実にシンプルなものだ。だが、この説を押し通すには三番目の被害者である藤原恵梨香だけ、その順番が逆──FとEになっていることに理由を付けなければならない。これはどういうことなのか──それはこういうことだ」

 そう言うと、スーツの懐から丁寧に折りたたまれたこの町の地図を取り出し、シワをならすように机に広げる。

「ここなら全員確認できるな? 見るべきポイントはここ、ズバリ二番目の事件現場との位置関係だ」

 ピッピッ。と指で地図上の二か所の地名を示す。最初に指したのは、北部に位置する五坂通り(二番目の現場)、そして次に指したのは南部に位置する足前(三番目の現場)だ。

「さあどう思う?」

 どう思うと聞かれても……。

「ほぼ正反対の場所ですね。結構距離はある。それくらいですが」

「それくらいでいいんだ。必要なのはこの二つがほぼ正反対の位置関係にあるということ。正反対、つまり真逆、だから真逆にする」

「は?」

 思わず口から言葉が飛び出してしまった。だが他のみんなも同じように呆気に取られている。この場で堂々としているのは、この説の提案者である日々崎さんだけだ。

「ちょっと待ってください、理解が……」

 さすがの佐橋さんですらこの通りの有様だ。羽柴さんは無言で空になったコーヒーカップに持ってきたお酒を追加して飲み干す。

「単純に、本当に単純ななぞかけの発想だ。現場の足前は前の現場と真逆の位置、つまり足が頭、前が後ろ、頭後だ! つまりイニシャルを逆にしろという意味になる!」

 ドン! と効果音が入りそうな力説だ。しかし彼とぼくらには、そのテンションに着いていけないほどの温度差があった。

「……あながち否定出来ないな。なにせ藤原恵梨香が殺害されたのは、他の三件と違う火曜日の真夜中のことだ。そのルーティンを崩してまで殺害を実行したということは、事件を起こすのはその場所でなければならなかったという説の補強になる」

 木崎さんが頭を抱えながらそう呻く。

「それを実行したいがために、わざわざイニシャルが『EF』ではなく『FE』の藤原恵梨香を殺したというのか……?」

「そんなことを言うなら、《切断師》はアルファベット順に殺害するという動機のために四人の人間を手にかけていることになるんだぜ。これくらいのことなら平気でやるだろうさ」

 これで俺の説は終わりだ! このような根拠が薄い自説でも、臆さずに堂々と発言できる日々崎さんが、もしかしたらこの会にいちばん向いているのかもしれない。


 羽柴さんの仮説


「えーっ。みんなに発表されちゃったから、もう一つしか残ってないわよ」

 羽柴さんの語りは、そんな愚痴から始まった。

「一人一つですから一つあれば充分では?」

 ぼくの突っ込みは無言でスルーされる。まあわかっていたさ。

「でもこの一つはみんなが思い浮かばなかったようなすごい説よ! 驚きすぎて椅子ごと倒れないで頂戴ね!」

 そのすごい自信はどこから来るのだろう。不敵な笑みを浮かべながらふふふと笑うと、手に持ったお酒を飲み干しそれを机の上に置き、意外にもしっかりとした手つきでホワイトボードに文字を書き連ねる。

「さあわたしの仮説はこれよ!」

 書かれたその文章を見て、佐橋さんの顔に個々にきて初めて動揺が走った。

「あー……これはなんというか……」

 何かを口ごもる佐橋さん。いや、そりゃそうなるだろう。

「今回提案する仮説はこちら! 『被害者は全員佐橋病院の患者だった!』よ」

 漫画ならここでババン! と背後に効果音が聞こえるような言い方である。一見荒唐無稽な説のように思えるが、ゆりかごから墓場までの年齢層を手堅くカバーするこの町一番の大総合病院だ。被害者全員がかかったことがあってもおかしくはなさそうだが。

「なによみんな、驚きすぎてリアクションが薄いわよ?」

 なぜかぼくらの態度に不満げな羽柴さん。そんな彼女に動揺から回復した佐橋さんが話しかける。

「なるほどなるほど。まあ斬新さのある説だと思いますよ。少なくとも私は興味がありますね、佐橋病院の医師としてね」

 返答次第では云々という剣呑な気配すらそこからは漂うが、そんなことにはお構いなしの羽柴さん。

「あら佐橋さん、この説に不満でもあるのかしら?」とさらりと言ってのける。

「不満ではなく、どういった理由でその繋がりをセレクトしたのかということが聞きたいだけですね」

「……病院ってかなり待たされるじゃない?」

 いきなり何を? そう呆気にとられたのはぼくだけではなかった。だがそんなリアクションを気にすることなく、羽柴さんは話を続ける。

「特に大きい病院になると、診察の順番待ちだけじゃなくて、会計の時も待たされることが多いじゃない? そういう時ってまあロビーの長椅子とかに座ったりして自分が呼ばれるまでボーっと携帯をいじったり本を読んだりして待つわけだけど……。うーん違うわね、そういう待つのが長いと言いたいわけじゃないの。待つのが長いってことはつまり、そこには大量の人間が集まっているということ。年齢も性別もバラバラな人間が、不思議なことに奇妙な一体感を持ってそこに集っているの」

 そこまで言われて、ようやく彼女が言わんとすることがなんとなく伝わってきた。

「《切断師》は病院に来た人間の中から、自分のターゲットを選んでいたと言いたいんですね」

 ぼくの発言に羽柴さんは頷く。

「まあざっくり言っちゃえばそういうこと。多分他にも《切断師》にはターゲットに選ぶ基準があるんだろうけど、その相手を探す場所は人間がいっぱい集まる佐橋病院だったんじゃないかなって」

「でもそういったバラバラな人間が集まるのは病院に限らないじゃないですか。例えば駅とかデパートだってそれに該当するでしょう」

 再び口を開いたぼくに、今度はすぐさま首を振りそれを否定をする。

「たしかに白鷺ちゃんの言ったように、そういう場所でもこの説は当てはまるかもしれない。でもね、そことここでは決定的に違うポイントがあるの」

「名前を把握しやすいことだな」

 間髪入れず、木崎さんが答える。

「その通りよ木崎くん。例えば診察室に呼ばれる時だって、『○○さーん、○○さーん。お入りください』とアナウンスがかかるし、お会計の時だって『○○さーん、ほにゃほにゃカウンターへどうぞー』みたいな案内をされるじゃない? これは病院という特殊な環境だから得られる利点であって、他のところじゃそうもいかないわ」

「たしかにそう言われてみれば……」

 御影さんは興味深げに唸る。最初こそどういう風に論理が展開されるのか不安に感じていたが、思いのほか真っ当だ。

「ということは羽柴さん、あんたは俺の説に賛成してくれているってことか?」

 嬉しさをあらわに日々崎さんは言う。

「部分的にはそうってことになるかしら。今のところはそうだけど、もしかしたら他の誰かが挙げる説の補強になるかもしれないし」

「つまり《切断師》は一つの共通点だけでなく、複数の共通点を持つ人間をターゲットにしているということか?」

 ここまで静かに傍観していた西野さんが、いきなり話に割り込んでくる。

「うーん、そういう可能性も探っていった方がいいと思うのよね。じゃなかったら、もっと無差別に殺人を起こしてそうだし。なによりこれまでの犯行だって、『ここには規則性がありますよ、それがわかりますか?』って挑発してきている感が滲み出ているもん」

 羽柴さんのその言葉に、木崎さんは深く頷く。

「なるほど、説は複合しうるというわけか。ふむ、羽柴さんにしてはいい着眼点だ」

「『にしては』は余計よ、木崎くん!」

 羽柴さんから怒声が飛ぶが、木崎さんは何も気にすることなく、涼しい顔でコーヒーを飲む。

「となると──それは、俺の説も補強されそうだな」

 空になったカップを机に置くと、木崎さんはそう嘯く。

「羽柴さんも話し終わったようだ。では俺も話させてもらうとしよう」

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