第52話 侵入

 志人達が待ち合わせ場所に着くと、既に幸子達が待っていた。

 軽食を摂りながら情報を共有し、作戦を練る。

 華凛が政明の蘇生に釣られて加担していた事に、宗明は酷く動揺していた。

 それでも安倍家の当主としての自負が、彼を奮い立たせた。

 二台の車が山道を進むと、やがて古ぼけた建物の前に辿り着いた。

 閉じられた鉄のゲートを押し開き、入り口前に車を停める。

 三階建ての、簡素なビルだった。

 壁には植物の蔓が這い、枯れ葉が駐車場を埋めている。

 廃墟といっても過言ではない外観だが、クオンの耳は中に人がいる事を聞きつけていた。

 道真が入り口の扉を蹴破る。

 狭い廊下は真っ暗だったが、古びた電灯のスイッチを入れると明るくなった。

 それと同時に、廊下の奥から屈強な男が現れる。

 九尾の狐との戦いにいたガイに雰囲気は似ているが、顔立ちはもっと若く見えた。

 大男はゆっくりと近づいてくる。

 道真が身構え、後ろで美陽が印を結んだ。

 美陽の手から溢れ出た光を纏うと、道真は床を蹴って一気に距離を詰めた。

 大男が繰り出す拳を軽く躱し、鳩尾に拳を叩き込む。

 そのまま壁を蹴って跳ぶと、首筋を全力で蹴り付けた。

 首があらぬ方向に曲がって倒れた大男は、そのまま動かなくなった。

 それを見届けると、道真は廊下の奥へと駆けていく。

 曲がり角から現れた二人目が身構える前に、道真は再び壁を蹴って飛び蹴りを入れる。

「見かけ倒しだな」

 更に奥から向かってくる三人目に向かって、道真は不適な笑みをみせた。


 道真が戦い始めてから、クオンは意識を鼻に集中していた。

 華凛の匂いは覚えている。

 彼女に取っては嫌な思い出ばかりの匂いだが、追わないわけにはいかなかった。

 目を開き、玄関横の扉を開いて駆ける。

 志人と宗明がその後に続いた。

「気をつけて」

 美陽の言葉に、志人と宗明が頷く。

「あの馬鹿を頼むよ」

 そう言って幸子も二人に続いた。

 すぐにエレベーターホールに着く。

 下降のボタンを押してみたが、反応しなかった。

「階段は上にしか行けないね」

 横にある階段は、幸子の言う通り上にしか続いていなかった。

「離れていろ」

 宗明がエレベーターの扉の前で告げた。

 呪符を使って刀を具現化すると、素早く切りつける。

 開いた闇に顔を突っ込んで下を覗き込むと、エレベーターは地下二階で止まっていた。

 宗明が闇に飛び込む。

 エレベーターの天井に着地すると、人通口を開けて中に入り込んだ。

 手招きするのを見て、志人も飛び降りる。

 続いてクオンと幸子もエレベーターの中に入り込んだ。

 試しに開のボタンを押すと、あっけなく扉が開いた。

 再びクオンが鼻を効かせる。

 廊下の奥から大男が姿を現した。

「邪魔だ!」

 宗明が駆け寄って刀を一閃させる。

 首を斬られた大男は、ゆっくりと膝をついて倒れた。

 その間にクオンが廊下を進み、右側にあった扉を開いた。

 そこは、巨大なシリンダーが鎮座する研究室だった。

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