第51話 救出

 宗明とクオンを乗せた車は、夜の高速道路を疾走していた。

 宗明は後部座席で回復の呪符を貼り、仮眠を取ろうと目を閉じる。

 しかし昂る気持ちが邪魔をして、眠りにつくことはできずにいた。

 隣に座るクオンも、落ち着きなさげに進行方向を睨みつけている。

 眠るのを諦めた頃、宗明のスマートフォンが鳴った。

 追跡をお願いしている刑事からだった。

 静かな車内での会話は、クオンの犬耳にもはっきりと聞こえた。

 期待に満ちた眼差しを宗明に向けるクオン。

「次の車が見える所まで、スピードを上げてくれ」

 宗明の指示に、運転手がアクセルを踏み込む。

 しばらく走ると、前方に白い軽自動車が現れた。

「次だ」

 緩めたスピードを再び上げて、次の車を目指す。

 八台の車を追い抜いたところで、目当ての車に行き当たった。

「見失わない程度に距離を空けてくれ」

 指示通り、テールランプが遠くに見える位置で追跡を開始する。

「どうなさるおつもりですか?」

 一秒でも早く追いつきたいクオンが、もどかしそうに宗明に尋ねた。

「高速を降りる所で襲撃する。事故で死なれては意味がないからな」

 宗明の言葉に、クオンは小さく頷いた。


 二時間程走った所で、前を走る車が高速道路の出口に向かった。

 それを見て一気に加速し、その背後に追いつく。

 料金所で減速する車を横目に、宗明達の乗る車は閉まるバーを気にも止めずに突っ込む。

 そうして先行する車の前に躍り出た。

 茂が状況を理解するより早く、クオンの拳がガラスを破って茂の首を握り締めた。

 宗明が後部座席のドアを開け、志人の手を縛っていたロープを断ち切る。

 目隠しを取った志人は、知った顔に囲まれているのを見て安堵のため息をもらした。

「ご無事ですか⁉︎」

 切羽詰まったクオンの声に、志人は頷いてみせる。

 ロングコートの男は動かない。

 指示がないと動かないものらしい。

 反対側に回って九尾の呪縛も解き放つと、少女は大きく伸びをした。

「あまり時は過ぎておらぬのに、ずいぶんと空気の違う所に来たのう」

 興味深げに乗せられていた車を見つめる。

 そうしている間にも、クオンは気を失った茂を縛り上げていた。

「これはどうしますか?」

 冷徹な視線を茂に向けるクオン。

「ここの陰陽師に拘束してもらう。横の林の中にでも捨てておこう」

 宗明の提案に、志人が頷いた。

 クオンは殺意を消さないまま茂を引きずっていく。

「母の居場所には見当がついている。道真達と合流して乗り込むぞ」

 志人が同意すると、宗明は現地の陰陽師に連絡を取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る