第49話 招待
「馬鹿な、ここまで気づけぬとは⁉︎」
困惑気味に九尾が毒付く。
彼女が視線を向けた先には、二人の人影があった。
まだ遠目だが、視認できる距離。
茂とロングコートの男だ。
二人はゆっくりと近づいてきた。
「皆さん頑張ってますねぇ」
見慣れた軽薄な笑みを浮かべて、中指で眼鏡の位置を直す。
「お昼ぶりですね、滋岡さん。ご招待に参りました」
そう言って大袈裟に礼をして見せる。
そこで校舎内から悲鳴が上がった。
振り返る志人に、茂は静止をかける。
「動かないで下さい。大人しく従ってもらえれば、里の方々に手出しはしません」
志人は茂の方に向き直り、睨みつける。
「怖い顔しないで下さいよぉ」
笑みを崩さないまま、茂が嘲る。
ロングコートの男が、志人に歩み寄った。
「抵抗はしないで下さいね。あなたが駆けつけるまでに、十人は死にます」
「中には三人おるようじゃ」
茂の脅迫を裏付ける事を、九尾が告げた。
仕方なく、志人は構えを解く。
近づいてきたロングコートの男は、ロープを取り出すと志人の両手を縛り上げた。
それだけでなく、目隠しで視界も奪われる。
ロングコートの男の足音が、九尾の方に向かう。
「抵抗しないでくれ」
志人の言葉に、九尾が小さく唸った。
「ご協力、感謝です」
ロングコートの男は九尾を縛り上げると、呪符を貼り付けた。
そしてその小さな体を担ぎ上げる。
「それではご招待しましょう。僕達のホームに」
大袈裟に両手を広げて言ったが、その姿を見ているのはロングコートの男だけだった。
幸恵の呼び出しから一時間程して、清也がファミリーレストランに到着した。
幸子達は数年会っていなかったが、その精悍な顔立ちは変わっていなかった。
「お久しぶりです。幸子さん、道真君」
低い声で挨拶すると、幸恵の隣に腰を下ろす。
「再会を喜びたいところだけど、時間がないんだ。簡単に状況を説明するよ」
幸子が真面目な顔で言うと、事態の緊急性を悟った清也は黙って頷いた。
華凛がいなくなった事、里が襲撃を受けそうな事を手短に伝える。
「あいつら、そこまで外道に落ちたか」
黙って話を聞いていた清也が、幸子から視線を逸らして吐き捨てるように言った。
「華の居場所に心当たりは?」
「奴らが長野近辺で何かをしているのは調査済みだが、正確な場所までは特定できていない」
その言葉を聞いて、幸子が黙る。
「なんで京都まで来て折り返したのかな?」
幸子が考えていた事を、幸恵が代弁した。
「本家と京都を争わせるためかな。京都の穏健派を失脚させれば、奴らにとって都合がいい」
清也の言葉に納得すると、幸子は彼の顔をじっと見つめた。
「私らは長野に向かう。悪いけど、少しでも情報を集めて知らせてほしい」
「協力しよう」
清也の言葉を最後に、四人は足早に店を出ていく。
幸恵達を見送ると、幸子達も待機していた美陽の車に飛び乗った。
華凛が案内されたのは、大規模な研究施設の一室だった。
中央の巨大なシリンダーを囲むような形で、幾つもの液晶画面とキーボードが並べられている。
秀明が促すと、華凛は引き寄せられるようにシリンダーに近づいた。
その中には、一人の人影が浮いている。
華凛は愛おしげにシリンダーの表面を撫でると、頬を当てて目を閉じた。
「彼のゆかりの品があれば、一日で目覚める状態です」
冷たい笑みを浮かべながら、秀明が華凛の耳元で囁いた。
その言葉に、華凛は抱えていた風呂敷を手渡す。
それを恭しく受け取ると、風呂敷を解いて中身を確認する。
それは紛れもなく、安倍家の秘宝である四神手甲だった。
「もうすぐね、あなた」
華凛が顔を上げる。
シリンダーの中の人影は、目を閉じたままだった。
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