第48話 開戦

 陰陽師の里の南側。

 戦いの準備は、すぐに完了した。

 武装した陰陽師が七名、扇状に展開し襲撃を待ち構えている。

 宗明は里への階段を塞ぐ形で停めたハイエースの上に立ち、闇に隠された道の先を睨みつけていた。

 森の中で、小さな光が揺れる。

 調査隊からの合図だ。

「来るぞ」

 宗明が小さく告げると、全員が武器を手にして身構える。

 遠く微かに砂利を踏み鳴らす音が聞こえる。

 宗明が一枚の呪符を握りしめると、それは大きな弓に姿を変えた。

 それと同時に照明が闇を照らす。

 見える範囲でも十五体。

 中でも大柄な鬼に向けて宗明が矢を放つ。

 虚をつかれた大鬼は、喉元を矢に貫かれて倒れた。

 小鬼達が咆哮を上げて駆け出す。

 陰陽師達が呪符を放つと、最前列の鬼達が炎に巻かれた。

 炎の壁を避ける形で、鬼達の進軍ルートが二分される。

 宗明は休む間もなく矢を放つ。


 照明と炎で戦闘が始まった事を確認すると、クオンは木の上から飛び降りた。

 そのまま敵の最後尾にいた小鬼の後頭部を殴りつける。

 隣の小鬼が身構えるより早く、その顔面に蹴りを入れる。

 仲間の死に気づいた数体が進軍を止め、クオンに向き直った。

 その眼前で光が弾ける。

 クオンが放った光の呪符は、暗闇に慣れていた鬼達の視力を一時的に奪った。

 彼女にとってはそれだけで十分だ。

 手近な小鬼達を次々に屠る。

 七体を倒したところで、クオンは再び木の上に身を隠す。

 視界を取り戻した鬼達は、仲間の死体を前に呆然と立ち尽くした。


 鳥型の妖が、森の中へと落ちていく。

 血に濡れた錫杖を握った赤羽の身体が、不意に重力に引かれて高度を下げた。

 無数の光の球が、目標を失って飛んでいく。

 赤羽は宙を蹴ると、光弾が飛んできた方へと加速する。

 錫杖を振りながら闇の中へと突っ込むと、幾つかの影が森へと落ちていった。

 振り返って闇の塊を見る。

 それは大型の鴉の群れだ。

「やれやれ、此度の主人は人使いが荒い」

 光弾を放とうと、鴉達が嘴を開く。

 飛んできたそれらの間を縫って、赤羽は再び鴉の群れに突撃した。

 錫杖を振るう度に、鴉は地に落ちていく。

「久々にたぎるわ!」

 叫びと共に黒い羽は赤く染まり、風の刃が周囲の妖を一掃した。


「始まったようじゃな」

 魔法陣の中心で九尾が呟く。

 校庭の真ん中に描かれた陣は、索敵用のものだ。

 九尾はそこで目を閉じたまま、耳だけを南に向けている。

 志人は魔法陣の外から、その小さな背中を見つめていた。

(敵の侵入経路には、全て対処してあるはずだ)

 志人は自分にそう言い聞かせていた。

 その事に違和感がある。

(万全なはずなのに、何かひっかかる)

 漠然とした不安に襲われる。

 脳裏によぎるのは、茂の軽薄な笑み。

(俺ならどうする?)

 茂の性格から考えると、無意味に里を襲うとは考えられない。

 だとすると狙いは……。

「九尾」

 その考えに思い至って呟くと、彼女の耳が動いた。

 志人の方にではなかった。

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