第47話 会議

 志人が役所の会議室に入ると、すでに十名程が集まっていた。

 現時点で戦える陰陽師は、ここにいるメンバーだけだった。

「大変な事になったわね」

 美雲が声をかけてきた。

 頼りになる長女がいないせいか、いつになく落ち着きがない。

 その反面、隣に座る美月はいつもの通りだった。

「まだ準備する時間はある。落ち着いて対処すれば大丈夫じゃないかな」

 実は内心では美雲以上に落ち着かない志人だったが、年長者として毅然とした態度を維持した。

 震えそうになる手に力を込めて、美雲の隣に座る。

 クオンと九尾が並んで座ると、宗明が会議室に入ってきた。

「早速説明に入る。妖は里の南側から百体ほどと、数は不明だが北側からも攻め入るつもりらしい」

 宗明の言葉に、全員が息を呑む。

「北は赤羽に任せてある。滋岡家と賀茂家の皆には住民達が避難した学校を警備してほしい」

 美雲以下、賀茂家に名を連ねる陰陽師四人が頷く。

 病み上がりの志人を前線に配置しないのは、宗明の配慮だった。

 志人も奥歯を噛み締めながら頷く。

「残りは南の駐車場で百体を迎え討つ。妖共あやかしどもを里に入れるな」

 残る七人が力強く頷いた。

「一つ、提案があるんだけど」

 志人が小さく手を上げて進言する。

「クオンは後方を守るより、前線で戦った方が貢献できると思う」

 里の人々を守る事も大事だが、大規模な攻撃が行われるとは考えにくい。

 この提案は、宗明にとっては有り難かった。

「お願いできるか?」

「御命令とあれば」

 志人の問いかけに、クオンは力強く頷く。

「助かる。ではクオンも南側で迎撃に当たってもらう。それと、九尾の狐」

 不意に宗明に呼ばれ、彼女は驚いて顔を上げる。

「そなたの気づきで事前に対応できた。感謝している」

 宗明の言葉に、九尾は満足そうに頷くとニヤリと笑って見せた。

「妾がおれば守りは安泰じゃ。大船に乗ったつもりで、とまでは言えんが安心せい」

「感謝する」

 礼を言って会議を終えようとした宗明のスマートフォンが鳴った。

 幸子からの連絡を受け、その顔色が青ざめる。

 通話を終えると、宗明はもう一度皆に向き直った。

「今回の騒動は九尾の狐討伐メンバーだった、葛木茂の仕業である可能性が高い。こちらも警戒を怠らないように」

 その言葉に、一同がざわついた。

「あいつが?」

 志人の問いに、宗明が頷く。

「幸子さんからの情報だ。まだ断定はできないが注意してくれ」

 皆が頷くのを確認すると、宗明が足早に会議室を後にする。

 志人達もすぐにその後に続いた。


 座り心地の良い黒いソファーに、華凛は座っていた。

 応接室なのか、目の前のテーブルも室内の調度品も高級品ばかりだ。

 秘書らしき女性が運んできた緑茶の湯気を眺めていると、唐突に扉が開かれた。

「遠い所、お疲れ様です」

 入ってきたのは三十代半ばの男だった。

 華凛が安倍家に嫁入りした時には、まだ小等部に入ったばかりだったはずだ。

 その時のあどけない面影は微塵もなく、笑みを作っていても眼光は鋭かった。

「しばらくぶりね、秀明さん」

 華凛は少し疲れたように笑った。

「忘れ物はございませんか?」

 含みのある問いかけに、華凛は頷く。

 その膝に置かれは風呂敷包みを一瞥すると、安倍秀明は入ってきた扉を開く。

「それでは早速、ご案内しましょう」

 促されるまま、華凛は立ち上がった。

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