第46話 京都の事情

 幸子達が指定したファミリーレストランで待っていると、三十分ほどしてから幸恵ゆきえが現れた。

 顔立ちは幸子に似ていたが、どこかおっとりとした印象を与える。

 幸恵は幸子が一人ではない事に驚くと同時に、満面の笑顔を浮かべた。

「道真くん? 久しぶり! 元気だった?」

「おう」

 短く答える道真。

 座っているのは蘆屋親子だけだ。

 万が一を考え、美陽は外で待機していた。

「今日は仕事で?」

 二人の向かいに座りながら、幸恵が笑顔で聞いてくる。

「実はね、それどころじゃないんだ」

 幸子に真剣な表情を見せられ、目をぱちくりさせる幸恵。

 道真の様子を伺ってから、二人の方に身を乗り出した。

「うちに来れない事情ってやつ?」

 幸子は黙って頷く。

 そのまま幸恵の目をじっと見つめて、彼女が重大な話を聞く心構えができるまで待った。

「今朝、華がいなくなった」

 幸恵は驚いて目を見開く。

「どうやらこの辺りにいるようなんだが、何か知らないかい? 最近の京都の様子だけでもいい。情報がほしい」

 幸子の言葉に、幸恵は口元に手を当てて考える。

「まず、直接は知らない。最近のこっちは……、正直あまりいい空気じゃないの」

 そう言って目を伏せる幸恵。

 幸子はその姿をじっと見つめる。

「知ってると思うけど、こっちの人達って本家に対してのライバル視が強いのね。それで切磋琢磨してくれるなら悪い事じゃないと思ってたんだけど、少し前から過激な人達が出てきたの」

 言葉を整理している幸恵の代わりに、道真がタッチパネルで注文を済ませる。

 そのまま席を立つと、コーヒーを三杯汲んで戻ってきた。

「ありがとう」

 礼を言って受け取ると、幸恵は真剣な顔で話し始めた。

「手段を問わず、本家の力を削いで実権を握ろうとする人達がいるって噂があるの。この前、九尾の狐を調伏するメンバーに葛木茂くずきしげるって人がいたでしょ? 彼もその一人だって言われてる」

「あいつか」

 幸子が苦い顔をした。

 宗明に連絡した際に、里で起きている事は聞いていた。茂なら村を歩いていても怪しまれる事はない。各所で魔法陣を描くことも可能だろう。

「禁じられてる呪符の改変や人体実験も裏でやってるみたい」

「そいつらの根城は?」

「そこまでは分からない。私も清也せいやさんから聞いてるだけだから」

 安倍清也。

 あまり口数は多くないが、実直な人柄で嘘をつくようなタイプではない、というのが幸子の評価だった。

「一応聞くけど、清也さんはそっち側じゃないよね?」

「当たり前じゃない」

 姉の問いかけに、幸恵は驚いたように声を上げた。

 幸子は妹をじっと見つめる。

 今までの態度で不自然な点は見当たらなかった。

 だが、用意周到な相手がここの接点を見落としているとも考えにくい。

 清也と連絡を取ることに、まだ一歩踏み切れない。最悪の場合、敵が待ち構えている所に三人だけで乗り込む形になりかねないからだ。

「清也さんに聞いてみようか?」

 考えこむ姉に、幸恵が声をかける。

 幸子はコーヒーを一気に飲み干すと、腹を括った。

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