第45話 賭け

 幸子達は、ショッピングモールの駐車場で立ち尽くしていた。

 町の各所にある監視カメラを調べてもらい、この駐車場に入った事が確認された。

 五階建ての駐車場を手分けして探し、やっと見つけた車は無人だった。

 術を使って追跡を試みるが、今回も痕跡が消されている。

 ここでも別の車に乗り換えたと考えられたが、手がかりが何もなかった。

「ここまで来て!」

 珍しく美陽が怒りを露わにする。

 その姿を見て逆に冷静さを取り戻した幸子は、大きく深呼吸をして考えを巡らせる。

「京都で降りたって事は、安倍の分家の仕業で決まりだろ? 場所はわかってんだから乗り込めばいいじゃねぇか」

 道真が拳を握りしめて言った。

 溜まった怒りを何かにぶつけたくて仕方がない様子だ。

「証拠もなしに乗り込めないだろ。それに、三人だけじゃ返り討ちにあうだけだ」

 幸子が厳しく否定した。

 道真が舌打ちして黙り込む。

「証拠さえあれば、逆に日本中の支部に通達して追い込む事もできるんだけど」

 美陽が親指を噛みながら思案する。

 疲れと焦りから、かなり落ち着きがなくなっていた。

「危険な賭けになるけど」

 幸子が呟くように言った。

幸恵ゆきえに会いにいってみるか」

 その提案に、二人はすぐに返事ができなかった。

 幸恵は幸子の妹だ。

 今は安倍清也あべせいやと結婚し、京都に住んでいる。幸子と仲がいいとはいえ、敵かもしれない一族に嫁いだ相手と連絡を取るのは危険な行為だ。

 だが、他に打つ手がない。

 美陽が頷き、続いて道真も頷いた。

 意を決して幸子が電話をかける。

 数回のコールの後、懐かしい声が聞こえた。

「姉さん? 久しぶりだね」

「元気にやってたかい?」

 先程までの緊張を感じさせず、いつもの調子で幸子は話し始めた。

「ちょっと近くに来る用事があってね。これから会えない?」

「いいけど、前もって言ってくれれば色々用意したのに」

 幸恵の調子におかしなところは感じられなかった。

「今日は清也せいやさんは?」

「遅くなるかもって言ってた」

 妹の言葉に安堵する幸子。

「じゃあ、急で悪いけど近くのファミレスまで来てくれるかい?」

「別にいいけど、うちじゃダメなの?」

「ちょっと事情があってね」

 それだけ言って通話を終えた。

「行こう」

 再び緊張感を持った顔で幸子が言うと、二人は黙って頷いた。


 妖の調査を行なっていた者達から、宗明に報告が入った。

 里に向かう妖の数はおよそ百体。中級の鬼も確認されていた。

 早ければ二時間後には里の入り口に到達すると予想された。

 クオン達の調査によると、六大家の魔法陣は全て里の南側にある入り口から侵入するよう設定されているようだった。

 問題なのは役所に向かうルート。

 これだけは里の北側から侵入するルートが取られていた。

 この里は攻め込まれにくいように、三方向は切り立った崖になっている。

 北から小鬼達が攻め入ることはできないはずだ。

 宗明は村の北端に立ち、先を見据える。

 夜の帳が降り始めたため、暗い山の影しか見えない。

赤羽あかばね

 宗明が呼びかけると同時に、その隣に大きな影が現れた。

「ここに」

「妖が好む匂いが続いてるらしいが、感じ取れるか?」

 宗明の問いかけに、天狗は村の中心と北の空を見比べた。

「一直線に続いているようだ」

「今夜、この村は襲撃される。この崖を突破できる妖、ただの小鬼とは思えない」

 赤羽は腕を組んで暗闇の先を睨みつけた。

「まだ気配は感じられぬが、容易な相手ではないだろうな」

 くぐもった声で赤羽が言った。

「匂いを辿り、調伏してくれ。もし手に負えない相手なら、すぐ知らせてくれ」

「承知」

 短く答えると、赤羽は姿を消した。



 

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