第43話 策

 ハイエースを追っていた幸子は、刑事からの連絡を受けた。

 一度岐阜県の養老サービスエリアに立ち寄った後、今は姫路サービスエリアに停まっているらしい。

 京都で降りると思っていた幸子は、更に西に進んでいる事を意外に思った。

 それでも停まっているなら追いつくチャンスだ。

 美陽はハンドルを握る手に力を込め、アクセルを踏み込む。

「どこまで行くんでしょう?」

「首根っこ掴んで聞いてやろうじゃないか」

 美陽の問いに、幸子が不適な笑みを浮かべて答える。

 何台もの車を追い越し、日が傾く頃に一行は姫路サービスエリアに到着した。

 手分けをして探すと、思いの外あっさりと目的のハイエースを見つける事ができた。

 運転席に座る男は、シートを倒して居眠りをしているようだった。他に乗客は見当たらない。

 幸子と道真がバックミラーの死角になる位置に隠れると、美陽が運転席の窓を軽くノックする。

 男はすぐに目を覚ますと、窓の外で微笑む美女を見てだらしない笑みを浮かべた。

 何の躊躇もなく窓を開ける。

「どうしました?」

「ちょっと人を探してるんだけど、この車に乗ってた人知らない?」

 愛嬌たっぷりの笑顔で聞かれ、男は少し考える素振りを見せた。

 その時、不意にドアが開かれ男の胸ぐらに道真の手が伸びる。

 あっという間に引き摺り下ろされた男は、三人に取り囲まれた。

 突然の事に言葉が出なくなる。

「お姉さんに教えてくれないかな?」

 変わらぬ笑顔で聞くが、この状況では脅しでしかない。

「しっ、知らねぇよ。俺はこの車を福岡まで届けるよう言われただけで」

 三人の顔を順に見ながら震える声で答えた。

「あんたがこの車に乗ったのは、どこからだい?」

 幸子が低い声で尋ねる。

「養老サービスエリアからです」

 威圧感に耐えられず、ひきつった声で答える男。

「そこでサングラスの男から鍵を渡されました」

「で、その男はどうした?」

 今度は道真が凄む。

「別の車に乗ったと思います」

 幸子と美陽が視線を合わせる。

 美陽はポシェットから呪符を一枚取り出すと、男の額に貼り付けた。

 何をされているか分からずに怯える男に、美陽はできるだけ優しく声をかける。

「大丈夫だから。その時のこと、よーく思い出してほしいな」

 呪符の端から睨む道真の顔が見え、男は目を瞑ってその時の事を必死に思い出す。

 そのイメージが、美陽の脳裏に浮かび上がった。

「白のミニバン。華凛さんも乗ってる。ナンバーは……」

 幸子がすぐにメモを取る。

「やられたね。すぐに戻るよ!」

 歯軋りする幸子は、スマートフォンを取り出しながら車に戻る。

 美陽は呪符を剥がすと、男に笑みを見せた。

「ありがと。福岡まで、気をつけてね」

 手を振って走り出す。

 運転席に乗り込んだ時には、幸子はすでに刑事と話していた。

「京都南で降りたんだね。素性が分かったら教えて」

 それを聞いてエンジンをかける。

 二時間近く無駄足を踏んだ事に、美陽も奥歯を噛み締めた。

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