第41話 遅めの昼食

 メインコンピューターを復旧させた志人は、一度滋岡家に戻った。

 結局華凛のパソコンには手掛かりはなく、この騒動が自発的なものなのか何者かの暗躍によるものなのかは分らなかった。

 志人はちゃぶ台の前でお茶を啜りながら考えを巡らせる。

 クオンは台所で遅めの昼食の準備をしていた。

 志人の隣に座った九尾が、クオンの背を期待に満ちた目で見つめている。

「蘆屋の家もそうじゃったが、人里はいい匂いに満ちておるの」

 九尾が笑顔で鼻を鳴らしながら言う。

 里の問題など我関せずといった感じだ。

「そうですね。私もこの姿になるまで気がつきませんでした」

 中華鍋を振りながらクオンが同意する。

 機嫌がいいのか、作務衣から覗いた尻尾が揺れていた。

「俺には分らないけど、二人とも犬科の妖だから鼻がいいのかな」

 意識してみても、志人には台所から漂う匂い以外は分らない。

「何かこう、惹きつけられずにはいられない匂いじゃ」

 九尾が説明するが、やはり志人には分らない。

 そうこうしているうちに、皿に盛られた炒飯が運ばれてきた。

「俺にはこっちのいい匂いしか分からないな」

「確かに、うまそうな匂いじゃ!」

 九尾が同意してスプーンを構える。

「いただきます」

 慌てて口の中に掻き込んで咳き込む九尾の背中を叩きながら、志人も食事に集中する事にした。


 幸子達は手近なコンビニで買い込んだおにぎりを手に、ハイエースを追っていた。

 刑事の報告によると、ずっと西に向かっているらしい。

「関西か。きな臭くなってきたね」

 幸子が忌々しげに呟く。

 二人は答えない。

 陰陽師の隠れ里は各地にあるが、一枚岩とは言えない状態だった。

 特に晴明神社がある京都の安倍家は、分家ではあるものの実力は本家を凌ぐ勢いを見せている。

 前当主である政明が亡くなった事で、本家に対する態度は悪化していた。

「九尾を使役した事で、本家が力を取り戻すのが嫌だって事か? それだけで陰陽師同士がやり合うとか、ありえねぇと思うがな」

 烏龍茶のペットボトルを空にした道真が、つまらなそうに言った。

「考えたくもないね」

 幸子が同意して三個目のおにぎりにかぶりつく。

「そうだとしても、華凛さんがそれに加担するとは思えないですよ。本家の人間なんですから」

「確かに。華がパソコン壊したのは事実っぽいから、何か別の問題と考えるべきかね」

 美陽の言葉に幸子は同意したが、疑念は残ったままだった。

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