第27話 華凛
目を覚ました時、
心配は無表情に隠される事なく、彼に向けられていた。
「クオン」
掠れた声で呼ぶと、彼女は両手で志人の手を取った。クオンの温もりが握られた手から広がり、彼の全身に伝わるように感じられた。
「まだ起き上がらないでください」
手を握ったまま、クオンが言う。
目だけで見渡すと、そこは志人の部屋のようだった。
「赤鬼は?」
「志人様が討たれました。祭壇の浄化が間に合い、あのまま崩れ去りました」
クオンの言葉に、志人は胸を撫で下ろす。
大きく息を吐くと、彼は再び眠りについた。
机には、手書きされた報告書の控えが置かれている。それは志人達が討伐に向かったものだった。
帰還したクオンの報告を受けた宗明には、疑念があった。
彼の父親達が亡くなった件から、依頼の事前調査はより念入りに行われるようになっていたはずだ。
クオンが言うような大型の鬼が召喚される事態は、周囲の状況から把握できていたはずだった。
事実、提出された報告書には中型以上の妖の危険性が示されている。
それがアプリには反映されていなかった。
事前報告を受けてから依頼をアップロードする間に、改ざんされたのは明白だった。
生贄の数が足りなかったのか、志人達でも倒せる不完全な状態だったのが不幸中の幸いだった。
クオンが伏せていたので、志人が改造呪符を使っていた事を宗明は知らない。
宗明は辛そうに腰を上げると、報告書を手にして部屋を出た。
向かう先は、執務室。
ノックをしてから扉を開けると、
「何かあったの?」
「これを」
そう言って報告書を差し出す。
華凛はそれを受け取って軽く目を通すと、宗明に返した。
「これがどうしたの?」
「滋岡が受けた依頼だ。内容が改ざんされている」
華凛は席についてマウスを動かすと、アップロードされた依頼内容を確認した。
「確かに、表記にミスがあったみたいね」
「ミスで許される問題じゃない」
宗明は母親を睨みつけるが、華凛は気にした様子もない。
「確かに大問題だわ。再発防止を徹底しないと」
それだけ言って華凛は仕事を再開する。
「滋岡は戦力として利用価値がある。潰すにはおしい」
母から視線を外さずに、宗明が低い声で言った。
「分かってるわよ。まったく、追い出したいと言ったり、気をつけろと言ったり。いつからこんなワガママになったんでしょうね?」
華凛の怒りの視線を受け、宗明は言葉に詰まる。
再びモニターに視線を向け仕事を始める華凛は、完全に息子の存在を遮断した。
その姿を苦い顔で一瞥すると、宗明は執務室を後にした。
息子が立ち去ったのを確認すると、華凛は机に拳を叩きつけて奥歯を噛み締める。
「思った以上にしぶとい」
漏らした怨嗟の言葉は、誰の耳にも入らなかった。
それから半年間は忙しかった。
各地で定期的に出没する小鬼を退治するだけでも大変だったが、中型の出現頻度も徐々に上がっていた。
負傷する陰陽師も増え、応援要請で遠征する事もあった。
志人は機を見て改造呪符を試しては倒れ、クオンに叱られていた。その度に更に改良を重ねる。それを繰り返す事で、呪符の内容をより細かく設定できるようになっていった。
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