第4話(過去編)

およそ10年前、新芽芽吹く幼稚園の春、

「なぁ、ちょと聞くけど、ウチら本当に他人?」


昨日、越してきた、確か、翠ちゃんだったと思うのだが、当時の私こと蒼は、聞きなれない質問に、どう答えて良いか分からず、ぼーっとして、あんぐり口を開いて、恐らくこう答えた。


「他人って何?」

翠ちゃんはこう答えた。


「ウチら、多分、将来結婚すると思うんやけど、もう一人の自分って言う意味。」


相変わらず何を言い出すのか分からない、まず、この子はなんなんだろう。


「家族ごっこがしたいの?」


「ちゃう、ちゃう、マジで結婚するの。はい、これ結婚指輪。」


何を言ってるか分からないまま、私は軽い気持ちで、指輪を受け取る。


「早速はめてみてや。」


「う、うん、わかった」


結婚指輪の意味は子供ながらに知ってはいたものの、いまいち訳の分からないまま、指輪をはめてみる。思えばこれが二人の馴れ初めの始まり。

「合う?」と翠ちゃん。


「う、うん」と私。


本当なら、他の女の子と一緒に、好きな男の子の話題をしたかったけど、彼女の真摯な眼差しに惹かれて、気が付けば、彼女と2時間程、見つめ合っていた。


まだ、実感は無いけれど、「これって愛の告白って言う意味なんだよね?」


徐々に胸が熱くなり、上気してきたのに気付く。


「その指輪、560万円したから、忘れんといてや。」


思えば、当時から翠は何もかも感覚が狂っていた。私が彼女に一般感覚を教えなければ。と、強い責務に駆られた。


「まずは、お友達からだよ。まだ知り合ったばかりじゃん、そんな高額な指輪受け取れないよ。」


「じゃあ、15年後渡すね、ウチの事覚えていてね。」


「まるで、空からお姫様が、舞い降りたみたい。不思議だね。」と、私。


二人して、何時間も瞳を見つめながら、談笑していたのを、今も強烈に覚えている。


「じゃあ、お友達になった証拠が欲しい。何かちょうだい」と翠ちゃん


「お手手繋ぐのはどう」


「いや!本当の友達なら、キスして欲しい!」


無軌道な翠ちゃん。どうやってキリをつけるべきだろうか。お腹がグ〜って鳴る。もうじき帰りの会の時間だ。今日の晩御飯は何だろうか?と思いつつ、私も私で吸い寄せられる様に、翠ちゃんのほっぺに軽くキスをした。

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