終わりの物語

第13話 僕の全て

部屋には散乱した紙屑と散らかった机。

殺風景だった部屋はどこか温もりを感じる。


この部屋の机が汚れる時がくるなんて、お父さんもお母さんもびっくりするはずだ。


「…勉強なんてしてこなかったからな。」


時計は夜中の2時を回ろうとしている。

寝静まった家はこの間の傷がチラホラと垣間見える。


「さて、行くか。」


そう、心の中で呟くと僕は家を後にした。


——もちろん、行き先は楓の家だ。


比較的、僕の家からは近い場所にあり、歩いて20分ほどの距離だ。


あの日以降、会えない日が続き、会える喜びもあるが不安が先行する。


そして、楓の家に着いた。

僕は楓の部屋に向かって小石を投げる。


——こつん。こつん。


すると楓がカーテンを覗く。


「優斗!?」


楓は驚いた顔でこちらを見ると小さく手招きをしている。


僕はエアコンの室外機を踏み台にし、どうにか壁をよじ登った。


——楓の家族には内緒で忍び込んだりしてたっけ。


「優斗くん。何してるの!」


「助けに来た。」


「…ありがとう。でも帰って。バレたらまたどんなことするか」


僕はそんなことは覚悟できていた。


楓の身体中には至る所にアザがある。

手首には縛られた跡もあった。


僕はどんどん怒りが込み上げてくるのを必死に抑えた。


「大丈夫だよ。」


楓はそんな根拠もない言葉だったが、何かを感じ取り、こう告げたんだ。


「優斗くん。ありがとう。」


僕はその言葉を聞いた瞬間、心は静寂に包まれ、冷静さを取り戻す。


「うん。持っていきたいものリュックに詰めて僕の家に行ってて!」


楓は荷物をまとめると窓から屋根をつたい、外へと出た。


「優斗くんは行かないの?」


楓は不安そうな顔をしてそう言う。


「先に行ってて!やらなきゃいけないことがあるから。」


僕は楓にそう告げると窓を閉め、鍵をかけた。


——呼吸を整える。


「うん。大丈夫だ。ちゃんと動く。」


2階から1階へと降りていく。

異様なほど静かな空間には僕の足音だけが響く。

台所からはポタポタと水の滴る音が聞こえる。


奥の寝室からは楓のお母さんとアイツの寝息が聞こえてくる。


僕は寝室に一歩一歩近づき、ドアをゆっくりと開ける。


布団が2枚。

並べて敷いてある。


入り口側にはアイツが寝ている。

奥には楓のお母さんだ。


僕はゆっくりとアイツに跨り、荷物に忍ばせてきた包丁を取り出した。


そして、怒り、悲しみ、憂い、寂しさ、憎しみを全て鈍く光る包丁に乗せて、がむしゃらに何度も何度も突き刺した。


「…おぁっ。お、おまえ。…ぐぁっ、や、や、め…」


声出す間も与えなかった。

心臓を突き刺し、腹を抉り、喉を切り裂いた。


そして、何かを感じた百合は目を覚ます。


「!?」


目を覚ました瞬間は何が起きたか理解できなかった様子だったが、その異常な光景に考えても何も理解できなかったのだろう。


「な、なにしてるの?…これは、なに?」


部屋は赤く染まり、生臭く鉄臭い匂いが漂っている。

理解のできないショックが思考を止め、叫び助けを呼ぶことすらも忘れている。


「これで、楓は自由だ。」


僕はそう告げると一思いに喉を切り裂いた。


喉を切り裂かれた百合は断末魔をあげることをできぬまま、最後の力を振り絞り僕へしがみついた。


そう、全て終わったんだ。

これで、救われるんだ。


——そして、最期。


「やり残したことをやらないと。」






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