第8話 ツナガリ

朝、目が覚めるといつもと同じ天井に、不気味に聞こえてくるアイツの寝息。


朝になると気分が晴れるなんてことはなく、夜になっても怖いだけ。


そしてまた、自由が一つずつ、欠けていく。


昨日の夜の記憶すら曖昧だが、私は今日寝坊をしてしまったらしい。


「はぁ、でも覚えてるよりマシかな。」

過去のことなんて早く忘れてしまいたい。1秒でも早く。


私は急ぐ事もなく、通学路をゆっくり歩いて学校へ向かう。


いつもは真っ直ぐ橋を渡る道を右に曲がり、川沿いを迂回する形で遠回りして向かった。


「小さい頃、よく桜を見にきたっけ。」

そんな昔の淡い思い出が蘇りながら、気づいたら学校の門に着いていた。


過去を忘れ去りたいなんて言っているのに、都合のいい記憶は思い出したくなる。


そんな自分にも嫌気がさす。


「おい。何時だと思ってるんだ!」

そんなお決まりのセリフが飛んでくる。


「すいません!遅くまで勉強しちゃって!」

そう簡単に嘘をつくんだ。私は。


教室のドアを開ける。


席に着くといつものように淡々と授業を受け、クラスの皆んなにはそれなりの対応する。


これでいいんだと心に言い聞かせていると、気付けば放課後になっていた。


「今日は麻衣と話せなかったな。」

でも、もう麻衣は私だけの親友では無くなってしまった気がしていたから、それすらもこれでいいと自分に言い聞かせた。


すると、麻衣が突然教室にやってきた。


「楓ー!!あっ!居た!お昼来ないから心配してたんだよー!」

麻衣がそう言いながら教室に入ってくると、私は凄くホッとして思わず泣きそうになってしまった。


「ごめんね!寝坊して着いたのお昼過ぎなんだ!」

そう伝えると麻衣はニヤニヤしながら、こちらを見ている。


優斗ひろとと同じじゃん!」


優斗ひろと?」


最初は何のことかサッパリ分からなかったが、優斗ひろとというのは麻衣の隣の席の男の子のことだった。


その子も今日寝坊して、お昼過ぎにきたらしい。


「そうそう!それでね。その優斗がさー!楓の連絡先教えて欲しいんだって!」


予想外の言葉が飛んできて、私は凄く戸惑ってしまった。


「私!?なんで私なの!?えっ?どうして!?」


そう、私はてっきり麻衣のことが好きな男の子なんだろうなと思っていたからだ。


だから私の居場所も無くなってしまうと思っていた。


でも勘違いと分かって安堵したと同時に、やっぱり男は私をそう言う目で見ているんだと思うと、吐き気がした。


「んー、ごめんね。優斗ひろとくんに連絡先教えるの嫌かな…」


「えっ!?やっぱりモテないなー優斗ひろと!まぁ、楓が嫌なら仕方ない!慰めてやるか!」


「ごめんね!」


——男なんて嫌いだ。


でも、告白なんて初めてだった。

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