第6話 覚悟

僕は頭が混乱していた。


頭がおかしくなってしまったんだと思う。


正直、楓の話はショックが大きかった。

そのショックで僕のモラルすら、崩壊してしまったのかもしれない。


——気付いたら楓の家のインターホンを鳴らしていた。


僕は学校へは行かず、楓の家へ向かっていた。


当然、楓は学校に行っている。


単騎突撃だ。

僕は好きという気持ちがあれば、一騎当千の勇者にもなれる、そんな気持ちだった。


「はーい!」

インターホンを鳴らすと、よそ行きの女性の声が聞こえてくる。


——玄関が開いた。楓のお母さんだ。


「は、初めまして!楓さんとお付き合ってます!!」

僕は開口一番、緊張で可笑しくなってしまった言葉で挨拶をした。


楓の母は慌てて僕を家の中へと引き入れた。


「君、今とんでもなく迷惑なことしてるよ?」

楓の母は怒り混じりに言った。


当然だ。

僕がやっていることはとんでもなく迷惑だ。

言われなくても分かってる。


「いきなりは困るわよ。あの人が居たらどうなってたか…」

楓の母は困惑した表情浮かべ、聞こえるか聞こえないかの声でそう呟いた。


あの人とは例の彼氏のことだ。


「初めまして。楓の母の百合です。」

自己紹介を済ませると帰れと言わんばかりに、僕に迫って威圧してくる。


そんなことはお構い無しに僕は楓から聞いたことを一つ一つ確認をするかのように話した。


「あの子、そんなことも話してるんだ。君よっぽど信頼されてるのね。」

そう安堵したかのように百合は言った。


しかし、その安堵に違和感を感じてしまった。


その表情は《娘に対して安堵した》というよりは《自分が解放された》そんな表情だった。


——なんだろう。この違和感は。


「なんでそんな人と一緒にいるんですか!楓のためにも別れればいいじゃないですか!!」

後先考えず、とにかく身勝手に僕は思ったことをそのまま口に出していた。


会ったこともない人に対して、怒りをぶち撒け、一方的なことを言い続けた。


最早、侮辱に近いかもしれないが、それも許されると思った。


「…好きだからよ。大切なの。」

僕からの意見や想いを聞いた後、そう返す百合の表情は妖艶だった。


これが女の顔かと子供ながらに思った。


僕は楓のお母さんに、どうにかしてもらおうと必死で話したが、赤の他人で子供の言うことなんて取り合ってもらえなかった。


「でも、楓も良かったじゃない。こんなに好きになってくれる人がいるなんて。」

一見、母親らしい一言だと思ったが、何かが違う。


何故、そんなに他人事のように言うのか。


そう考えていると僕はあることに気づいた。


そうか。

楓が言っていた《母親とは関係を上手く保てている》というのは、僕へ心配をかけないようにとの配慮だったんだと。


——この人からは楓への愛情を何も感じなかった。

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