第2話 繋がり

今日も変わり映えの無い、日常。

目が覚めるといつもと同じ、薄汚れた天井に床には乱雑に置かれた学生鞄。


でも、何かが違う。


同じ場所、同じ匂い、同じ風景。

父母は健在だが、いつものように起きたら誰もいない殺風景な家。


その違いに僕はまだ気付けていないが、悪い気はしなかった。ただ、この淡い雰囲気の中、一つだけハッキリと違うものに気づいた。


——いつもと起きる時間が違う。


僕は完全に寝坊をしていたのだ。

長針と短針はいくら目を凝らしても12時で重なっている。


「給食。」

僕はポツリと吐露する。


急いで支度をして家を飛び出したはいいものの、もう走る気力も起きないほどの大寝坊だ。


「はぁ…」

僕は溜息混じりに通学路をゆっくり歩いていく。


そんな絶望を抱えて路地を曲がる。そこには寂しそうに歩く姿があった。


——楓だ。


その瞬間、僕の心臓は今まで感じたことのない、痛みによく似た感覚を覚えた。


楓も寝坊をしたのだろうか。

それを想像するだけで、僕の絶望は希望へと簡単に変わっていった。


そんなことを考えていると目の前には学校の門と先生、まさに鬼に金棒のような光景が現れた。


「おい。何時だと思ってるんだ!」


そんなお決まりのセリフが飛んでくる。


「すいません!」


僕はそう言葉を返すが、そんなことは上の空だ。


急いで階段を上がり、教室のドアを開ける。


「寝癖すごっ!誰かのこと考えすぎて、夜更かししちゃったのかな?」


顔を合わせるや否や、相変わらず麻衣は意地悪なことを言ってくる。


いつもの僕なら悪態をつくところだ。


——しかし、今日は違う。


「あの、麻衣さん。お話しよろしいでしょうか?」


僕は仰々しく、麻衣にそう言った。


「なに!?気持ち悪い!」


麻衣は僕の違和感を察し、拒絶反応を見せた。これも想定内だ。


僕は張り裂けそうな胸をどうにか落ち着かせ、麻衣こう言った。


「楓さんの連絡先を教えて下さい!」


それを聞いた麻衣はスッと立ち上がると、こちらに目配せをしながら、教室を飛び出していった。


20分が経った。人生で1番長い20分だ。

時間が同じなのに長いというは矛盾しているが、僕にとって生きた心地がしなかった。


麻衣が教室に戻ってきて、開口一番にこう言った。


「あの…嫌いだから、教えたくないって」

その言葉を聞いた瞬間、僕は身体中から力が抜け、地球の全ての重力が僕にのしかかってくるように感じた。


断られることは考えていた。

まさか、嫌われているとまでは考えもしなかった。


——これが失恋というやつか。

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