未唯(後)

 矛能尾ケアセンター尻和里に電話をすると、また能面みたいなスタッフの対応の後、未唯が出てきた。

「未唯ちゃん、琉ちゃんよ。お姉さんの。わかる?」

「え、ええ、わかるわよ。」

なんだか、声のトーンが変だ。沈んでいるというか、挙動不審というか、向こうで誰かに見張られている感がある。

「未唯ちゃん、夢はわかる?私の子の夢。」

「夢ちゃんね。もちろん。もちろん。」

母はいきなり、携帯を私に押し出す。母、酷い。私に丸投げか。


「未唯ちゃん、私ね、今、文章書いているから。」

「あら、そうなの?」

「そう。溜まったら、読んでね。」

返事を聞く間もなく、向こうのスタッフが割り込んでくる。

「もう食事の時間ですので、切らせてもらいますね。」



 これは生き地獄ではないだろうか。一の話だと、現在、未唯は健康的には問題ないようだ。いくらでもこの先生きるらしい。

 いくらか周りの状況を見たり、本を読んだりして私の思うところの認知症の仮説がある。認知症の人の自然を妨げなければ、進行は遅くなるのではないかと。認知症の人の嫌がる状況に一定期間置くと、私が思うに、本人の心がその状態から逃げようとし、結果、認知症が酷くなる。私は認知症の専門家ではない。あくまで仮説だ。しかし、本人の心を理解しようともしないで、通説を振りかざす一介の者よりはましだと思う。


 私に今できるのは、とりあえず、書くことだけだ。介護について、間違った人を擁護しないように。正しい取り組みをしている人の賃金を向上させるように。正しい人と間違った人を一緒くたにし、おしなべて賃金を語るのはもうやめにしてほしいと私は思う。

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ぷりずん。 若阿夢 @nyaam

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